器(2)
父親はお茶を一口飲んで気分が落ち着くと、「まずは青龍寺の一族、そして環、おまえの体質のことも関係するから、そこから話すぞ」と言ってから話を始めた。
『青龍寺』
青龍寺の一族はむかしから続く血統だ。
一族は代々
青龍寺の家系は古来、『
青龍寺は欲に応えるため『依代』を発展させ、神霊がもつチカラを活用して、呪術を使うようになった。依頼は多く、何度も『依代』を行ううちに術者の能力は磨かれて技能は高くなった。
青龍寺家は
しかし良い面ばかりだけではない。濃すぎる血は「毒」にもなる。そして毒の要因は、青龍寺家が得意としている『依代』からきていた。
青龍寺家の『依代』は、自分の身を『
並外れた
忌み子は生まれたときは気づきにくい。しかし成長して喜怒哀楽の感情が出てくると異質な面が表に出るようになる。気性は極めて凶暴なことが多く、感情に左右されて暴走しやすい。
また生まれながらにして大きな
現在はむかしと比べると血は濃くはないが、それでも呪いのように青龍寺の一族には、何百年に一回ほどの割合で異質の子が生まれる。久しく青龍寺の一族は平和だったが、数百年ぶりに「忌み子」として環が誕生した。
嫌な歴史だが、環はこの家に養子として引き取られたときから、何度も聞かされているので、うんざりとした顔をしている。
「親父、何度も聞かされたぜ?
これと『
環は「柚莉」の正体が知りたくてウズウズしている。せっかちな環を見て、父親は小さなため息をついたあとに話を続けた。
「環、おまえを『器』にして入っているのは『白銀のキツネ』だ」
「ああ、そうだけど……。もしかして柚莉も『器』なのかよ?」
「そう、
だが彼の場合は規模が違う……」
そこまで言うと父親は目をふせて哀愁をただよわせる。言葉に出すことをためらうようすで少し間があったが、話を続けた。
「蓮華さんが内にもつのは、この国を七つに区切った土地の一つ……
関東の『土地神』だ」
環は父親からファンタジーじみた話が出てきたことに驚く。
(あのチビが土地の神の『器』だって?
土地神に『器』が必要なんて聞いたことがない。
だが、親父は冗談を言うタイプじゃねえ。
オレが知らない『
いきなりの展開にうさん
「なんだよ、親父。土地神の『器』が存在するなんて聞いたことねーぞ」
ふてくされた表情で環は言う。父親は環を見て少し笑ってから話し始めた。
「そうだな。土地神の『器』は青龍寺の一族でも伝説じみていたから、私も信ぴょう性を疑っていたんだよ。
でも……蓮華さんを見たときに気づいたんだ。
あのときの彼は『器』の蓋が少し開いていて、土地神の気配がもれていた。直感でわかったよ」
父親は当時を思い出して遠い目をしていたが、すぐに気を取り直して環に向き、「青龍寺家に伝わる伝説として聞いてくれ」と、前置きをしてから土地神の『器』について話し出した。
『日本という国』
日本。この国は大きく七つの土地に分けて見ることができる。
おおまかに「北海道」「東北」「関東」「中部」「近畿」「中国・四国」「九州」と分ける。七つの地には区切りごとに一体の土地神が守っている。
七つのうちでも「関東」は特別だ。ここにはいろんなものが集まり、最も大きなチカラがあるため国の心臓として中心に据えられている。パワーが強い地は、自然といろんなものを引き寄せることになり、地上には多くの人や物がのっている。
土地神は人も含めた自然全体を支える。善も悪も、清も濁も、すべてを平等にはぐくみ、土地の陰陽のバランスを取る。無言のまますべてを支えている土地神だが、「関東」という土地は変化が早すぎるため、物事に偏りができやすくなる。
この偏りで陰陽のバランスが崩れてしまうと、世の中が乱れたり、天災が増えることになる。厄介なのが「関東」で偏りが大きくなりすぎたときだ。ここが乱れてしまうと日本全国へ波及してしまう。
土地神は世が荒れないよう陰陽のバランスを取り、『理』が機能するように守る。だが土地神のチカラは無限ではない。大きなチカラはあるが、陰陽のバランスを取るためにチカラを使い続けると消耗してしまう。
そこで土地神は『代替え』を行う。「関東」以外を守るパワーをたくわえたほかの土地神と役目を交代するのだ。そうして次の順番が回ってくるまで、移動した土地を守りながらパワーをたくわえる。
数千年に一度ともいわれる『代替え』だが、その時期がきていて、土地神が移動するための『器』として選ばれたのが「柚莉」だった。
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