第7話 器「知られていない『世』の仕組み」
器(1)
「兄貴、親父いる?」
「いや、まだ帰ってきていないよ」
ただいまを言わずに
「なんだ、
「…………」
「手当てしてやるよ」
「いいよ、自分でやる」
「オレのほうがうまいだろ」
清正が救急箱から道具を取り出して器用に手当てをしている間、環はさっきまでの狩りを回想する。
数十分前まで環は夜の神社で
『式使い』と思っていた小柄な人物を攻撃してみると、常人と同じように
狩りの途中、第三者が介入してきたので、追い払うために脅しで軽く傷をつけた。それを見た瞬間、小柄な人物が怒りだして環に攻撃してきた。
それがとても奇妙で、
小柄な人物の正体は不明だったが、狩りの途中で彼の腕にあった数珠を見て、環の父親特製のものだと気づく。
狩りは中断したが、ワケありげな小柄な人物のことを、父親が知っていそうだったので、聞いてみようと
「いてえ。兄貴、もう少していねいにしろよ」
「ほら、終わったぞ。氷取ってくるから、顔は冷やせ」
清正は立ち上がってキッチンへと向かっていく。環はズキズキと痛む頬を軽くさわりながら、「口の中が切れてやがる」とボソリとつぶやき、苦々しい顔をした。
玄関の戸が開く音がして、「ただいま」と穏やかな声が家の中に響く。キッチンにいた清正の「おかえり、父さん」という声がして、やがて二人分の足音が居間へやって来た。
帰ってきた父親は、環が怪我をしているのを見て驚いた表情を見せる。環は決まりが悪そうに「おかえり」と言って迎えた。
清正が氷の入った袋とタオルを渡すと、環は殴られた頬に当てて冷やし始める。父親である
「なんだ、環が怪我をするなんて珍しいな」
「あー……。
ばつが悪い環は二人から視線を外して問いかける。
「親父、聞きたいんだけどさ、『
環が質問すると父親は黙ったままでいる。そのようすから、なにかあると気づいて続けて話す。
「蒼龍が彫られた数珠をつけたやつがいてさ、160センチくらいの長髪のチビで、女みてーな顔してて確か『ユーリ』って呼ばれてた。
この怪我、そいつとちょっとやり合ってさ……。親父の知り合い?」
そこまで話すと、父親は困ったようなため息をついた。どうやら清正もなにか知っているようで、ヤレヤレという感じで首を小さく横に振っている。
「環、その人は知り合いでね、特殊な事情があるから蒼龍の数珠を貸したんだ」
「知り合い? 今まで見たことねーぞ?」
「ああ、最近知り合ったんだ。
環は一人暮らしで家へはあまり帰ってこないから、まだ会ったことはないだろう。
彼は『
柚莉という人物が、青龍寺家とつながりがあったことは意外だったが、正体がわかりそうなので期待する。
「なんで人に貸さない蒼龍の数珠をあいつに渡したんだよ。
『特殊な事情』ってなんなの?」
「…………」
質問に即答しなかったことに、環はなにかあると踏んで、がぜん興味がわいて再度質問した。
「蒼龍を出すからには
よっぽどのことがない限り人には渡さねーだろ」
父親は環がただの好奇心から質問していることはわかっている。このまま放っておくと勝手に調べ始めるだろう。それに環が手の早いことは知っているので、また彼と接触して危害を加えるかもしれないと案じる。
父親は息子とはいえ個人的な情報を話すことに抵抗はあったが、環と柚莉という人物は、似たようなところもあるので、意を決して話すことにした。
「環、今から話すことは蓮華さん自身に伝えていないこともある。
だから彼に話さないでくれ」
父親は念押しをすると座布団に座った。清正は長い話になりそうだと思い、「お茶を入れてくるよ」と言って席を立った。
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