スリル(3)
腹に当たったこぶしの痛みを受けながら、
少し前―― 青龍寺はこの神社で小柄な人物が来るのを待っている間に、すでに白銀のキツネを出していて、狩りの準備を整えていた。
いざ小柄な人物が現れ、白銀のキツネの尾で
いつものように白銀のキツネと
白銀のキツネと猫又の戦闘は順調で、キツネのほうが押している。もう少しで猫又が手に入りそうなところへ、境内に第三者がやって来た。追い払うために、キツネの尾で風を起こして
邪魔者がいなくなると思いきや、第三者は小柄な人物と一緒にいた長身の男――知り合いだった。小柄な人物は、長身の男が怪我をしたとわかった瞬間に豹変した。
目に怒りを宿して俊敏な動作で青龍寺に攻撃してきた。蹴りといい、こぶしといい、どれも急所を狙っていて容赦がない。武術というより、喧嘩の場数を踏んでいるような攻撃だ。
突然の変わりようだが青龍寺は動じない。彼には白銀のキツネがついているからだ。キツネは青龍寺の敵には攻撃する武器となり、彼を守る盾にもなる存在だからだ。
それが崩れた――
いつもなら白銀のキツネがカバーする攻撃が通過して、殴ってきたこぶしが青龍寺の腹に響いた。とっさに後ろへ下がったが、完全には避けきれず腹に当たって息が乱れる。
「ゴホッ」
(なんだ、こいつ!
キツネの防御を抜けやがった!)
体勢を崩した青龍寺は、すぐさま向き直ったが目の前には間髪をいれずに、下から蹴り上げる足が見えた。すんでのところで避けるが、狐面に当たって面がずれる。
しまったと思った瞬間に、こぶしが飛んできて顔に当たり、面が外れて青龍寺は地面に倒れる。
面が取れて視界が良好になった状態で見ると、すぐ横に小柄な人物が駆け寄っていて、こぶしを振り上げている。
「
猫又と対峙していた白銀のキツネは、青龍寺の危機にすぐに飛んできて、小柄な人物の振り上げた腕に
腕を止められ、攻撃の邪魔をされた小柄な人物は、食らいつく白銀のキツネをにらむと、「邪魔をするな!!」と怒鳴った。腕を咬まれた状態のまま、地面にたたきつけ、もう片方のこぶしでキツネの目を殴る。
「ギャン!」と大きな声とともに、白銀のキツネの牙が小柄な人物の腕から離れる。
青龍寺は白銀のキツネがつくった隙に、すかさず小柄な人物から離れようとしたが、ついていた手を足で払われて再び地面に倒れる。
小柄な人物は、すぐに青龍寺の腕を踏みつけ動きを止めると、別の足の
そこへ馬乗りになるような形で小柄な人物はのしかかり、片手で青龍寺の鎖骨あたりをつかんで押さえつけると、もう片方はこぶしをつくり、体重をかけて上から突き落としてきた。
仰向けの状態で倒れている青龍寺は、目に怒りの色だけを見せた小柄な人物の顔が映り、なんの
「ユーリ!!」
境内に大声が響き、小柄な人物はその呼びかけに反応して、青龍寺の目に当たるギリギリのところでこぶしを止める。
腕の動きが止まった
数珠はヴヴヴヴヴヴッと小さく振動し始めて、丸い形をした水晶の玉だけが、爆発でもしたようにパンッと粉砕してなくなり、龍の形をした
青龍寺も小柄な人物も、突然のことに数珠に見入っていて動きが止まっていた。
「ユーリ! よせっ」
そこへ再び長身の男が制止する声が耳に入り、怒りで
青龍寺は、隙ができたところを
小柄な人物はとっさに腕で蹴りをガードできたが、ウエイトの差で飛ばされる。だがすぐに体勢を整えて青龍寺のほうへ向き、にらみつけて再び戦闘モードへ入る。そこへ駆け寄ってきた長身の男に止められた。
「なにしてるんだ!?」
状況が見えていない長身の男には、小柄な人物が突然怒りだして、青龍寺に攻撃を加えたようにしか見えていない。
「なんだ!? 怪我してるじゃねーか!」
「大丈夫! オレにかまわず、シュウトは下がってて!
こいつは今やらないと、またシュウトに怪我させるかもしれないっ」
白銀のキツネが咬みついた場所は袖が破れ、腕から血がにじんでいる。それを気にとめるようすもなく、今にも飛びかかっていきそうな小柄な人物を、長身の男が制止している。
蹴りを入れたあと、青龍寺はすぐに立ち上がって、十分に距離をとった場所でようすを見ている。彼の前には白銀のキツネがいて、同じように小柄な人物を警戒している。
青龍寺は怒りの表情でにらんでいる小柄な人物の腕にある数珠を見ている。
(あれは……
しかも親父の特製だ。
なんでこいつが持っていやがる……)
緊迫する空気が流れるなか、長身の男と小柄な人物が話している。
「落ち着け!」
「止めるな、シュウト! あいつの正体がわからないんだ!
ここで仕留めておかないと次は対処ができないっ」
「なに言ってんだ!? あいつは青龍寺のトコの息子だろ?」
「え、青龍寺さん?
……なんでシュウトが青龍寺さんのこと知ってるんだ?」
二人の会話から「青龍寺」という単語が聞こえ、
まだ怒りが収まらず攻撃してきそうな小柄な人物に警戒しながら、青龍寺は隠しておいたバイクにまたがり神社を去った。
(あのチビ、親父の知り合いか?
それにしても……
あいつ、途中からオレのキツネの姿が視えるようになり、さわれないはずの霊体にもふれられるようになっていた。
霊感はなかったはずなのに…… 規格外なやつだ)
青龍寺はバイクを走らせながら、殴られた頬の痛みで戦闘時を思い出す。
(なんのためらいもなく、目をつぶしにきやがった。
あんなスリル、初めて味わったぜ。
ヤバかったけど…… ゾクゾクしたなぁ)
これまで敗北もなく進んできた青龍寺は、初めて身の危険を感じた出来事に奇妙な充足感を覚える。戦闘のせいで体のあちこちに痛みが走るが、青龍寺はワクワクしていて、顔には満面の笑みが浮かんでいる。
(猫又よりも断然あのチビに興味がわいたぜ。
面白いモノを見つけたかもしれねえ)
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