弱肉強食(6)
夜の河川敷で、興奮したネコの声と男の悲鳴が聞こえている。
下では
(ん? ぼんやり光ってやがる。
あれは―― おいおい、マジかよ。でかい
面白そうなのがいるじゃねーか!!)
常人には見えない光に気づいた青龍寺は走り出して、遊びに行く子どものように目を輝かせて光のあるほうへと急ぐ。
繁華街から見えている光はかなりの大きさがあり、5~7階の高さほどあるビルの壁に当たって、ぼんやりと光りながらゆらめいている。
(オレが行くまで消えるんじゃねーぞ!)
青龍寺は光を見失わないよう走って向かっていると、光のある方向から小さな衝撃波を感じた。それは街路樹で休んでいた鳥も感じたようで、「ジェッ」という警戒音とともに、木の中にいた小鳥の群れがバッと飛び立った。
(こいつは期待できる! 楽しめそうだ!!)
青龍寺は楽しそうな笑みを浮かべて光のもとへ向かうが異変に気づく。
「マジか。光が小さくなっていく! あー! くそっ! 間に合え!!」
光のある場所の検討はついたので青龍寺はそこを目指す。見晴らしのいい大通りへ出たので、光源が狭い路地にあることがわかった。大きかった光はかなり小さくなっていて、狭い路地からかろうじて光がもれているくらいだ。
(よし、間に合いそうだ!)
青龍寺が正体を確認しようとした矢先、ほとんど消えかけている光が大通りに向かって、近づいてきていることがわかって足を止めた。
(こっちに向かってきてるみたいだな。
どんなのかわからねーし、まずは正体を確認するか)
全力疾走してきたので、上がる息を整えながら、道路を挟んだ向こう側にある狭い路地をじっと見て光の正体が現れるのを待つ。
光はどんどん弱くなり、しまいには消えてしまった。それでも青龍寺は路地を見続ける。すると人影が出てきた。
(背の高い男―― こいつじゃねーな。
……あぁ、もう一人のほうか)
青龍寺が見つめる先には、背の高い人物ともう一人、小柄な人物がいた。小柄なほうは長髪で、酔っているのかフラフラとしていて長身の人物が支えている。
ほかの人の目には、酔っ払いと介抱する人に映るだろう。だが青龍寺の目には違ったものが視えていた。
(あの女、面白いの連れてるなぁ。
あれは…… 猫又か?)
小柄な人物の頭上には空中に浮かぶネコがいる。通常とはサイズが違って大型犬ほどだろうか。しかも尾が二つに分かれていて、ほのかに全身が光っている。
この大きなネコは、コウモリのように飛んでいる黒いモノを見つけては飛びかかって
(『式使い』かよ。
でも、あんなやつ、寺関係の中で見たことねーな。
個人的に飼っているのか? ……なら、オレが個人的に狩ってもいいよなぁ)
青龍寺はニヤリと不気味な笑みを浮かべて、二人が歩く道路側へ渡り、あとをつけ始める。
長身の人物が車道をキョロキョロと見るようになったので、青龍寺は距離をとって気づかれないように用心する。
二人はしばらく歩いていたが、空車のタクシーを見つけると止めて乗りこんだ。すかさず青龍寺もタクシーを止めて乗りこみ、ゆっくりと運転させて、運転手に尾行していることを気づかれないように、あとを追わせた。
二人を乗せたタクシーは、繁華街を通り抜けて住宅地へ向かっていく。しばらく大きな通りを走っていたが、道はだんだんと小さくなっていく。これ以上追いかけると運転手に怪しまれそうなので、青龍寺は前を行くタクシーが曲がった路地を確認したら、少し離れた場所でタクシーを降りた。
乗っていたタクシーが去ったあと、青龍寺は夜道を歩いて、二人が使ったタクシーが入っていった路地を進んでいく。しばらく行くと、マンションや平屋などが並んでいる場所となり、それぞれの部屋から明かりがもれている。
青龍寺は暗い路地の端に立って目を閉じ、神経を集中して、さっき見た大きなネコの気配を探し始める。家々を探っていると、マンションのある一室でネコの気配を察知でき、居場所を確信する。
(いた……。場所はわかった。
一人になったときに狩ろうか。そのほうが騒ぎにならないからな)
青龍寺は新たな標的が見つかってウキウキしている。ニヤニヤと笑みを浮かべながら軽い足取りで去っていった。
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