弱肉強食(3)

 サトウは出社すると一日のうちに、なにかしらのミスをして、上司の罵声を浴びて謝ることを繰り返す。


 入社して3カ月が過ぎてもこの調子なので、社内では日常風景となってしまい、社員も気にとめなくなっていた。


 このころになると、サトウの心は麻痺まひしており、奇行に走っていることに、サトウ自身が気づいていなかった。


 サトウは帰宅すると、ジャージに着替えてタオルを持ち、ランニングシューズを履いてから外へと出ていく。


 夜の住宅地をウォーキングして、すれ違う人がいれば、会釈だけのあいさつを交わし、スタスタと夜道を行く。


 人通りの少ないところへ来ると、キョロキョロとあたりを見回して、小さく声を発しながら、なにかを探し始める。


 サトウの呼びかけに「ニャー」と返事をしてネコが現れると、サトウは「おいで、おいで」とやさしい声をかけて、市販されているネコのえさを投げる。


 ネコはうれしそうに餌のあるところへ行き、おいしそうに食べ始める。そこへサトウは、ジャージのポケットに隠し持っていたエアソフトガンを取り出して、ネコに向けて発射した。


「ギニャー!!」


 激痛を感じたネコは悲鳴を上げて物が飛んできた方角を向く。そこにはニヤニヤと薄気味悪い笑みを浮かべたサトウがいて、エアソフトガンをネコに向けている。


 驚きの目で見ているネコは、さっきのエアソフトガンの弾が片目に当たってつぶれている。それでも容赦なくネコに銃口を向けてきたので、ネコはあわてて背を向けて猛ダッシュして逃げた。


 サトウは、なすすべもなく逃げるネコを見て優越感にひたり、ネコの背に向けてエアソフトガンを発射した。弾が当たると「ギャッ」と鳴いて、ネコは必死になって逃げていく。


 周りに人がいないことを確認して、ポケットにエアソフトガンをしまう。気分が良くなったサトウは、満足そうな笑みを浮かべて来た道を帰っていく。


(会社では最下位の僕でも、ネコよりは上だ。

 ネコは僕になにもできない。僕がボスだ)




 サトウの行動はエスカレートしていった。はじめはエアソフトガンを使っていたが、次第に満足できなくなり、残虐性が増していく。


 夜になるとサトウはジャージ姿で出かけていく。人の通りが少なくて、ネコがいそうな場所へと行き、ネコの姿を見つければ、やさしい声でネコを呼ぶ。


 ネコが近寄ってくると餌を与え、油断して食べているところへ、バスタオルをすばやく上からかぶせて捕まえる。バスタオルごとテープでぐるぐる巻きにすると、大きなリュックに投げ入れ、そのまま持ち帰る。


 しばらく放っておいて元気がなくなったところで、夜中に人の来ない河川敷へネコを隠して持っていく。


 サトウは川へ着くと、キャンプなどで使う折りたたみ式のアウトドアナイフを取り出して、抵抗しないネコを切りき、その遺体はばれないように川へ捨てるという行為に及んでいた。


 サトウの精神状態はもはや正常ではない。自分より弱いものの姿を見ないと不安定になり、イライラするようになっていた。ついには生殺与奪の場面にならないと、満足感を得られないところまできていて、すでに三匹のネコが彼の犠牲となっていた。


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