狐面の男(3)

 暗い過去はあるが今の青龍寺しょうりゅうじには、偽りとはいえ人望があるし、カネもあって女性にも困らない。


 青龍寺のような男は、裏の顔を知らない人から見れば、うらやむような境遇だろう。それなのに彼はいつもなにかを渇望していて、心が埋まらない。


 求めているものがなんなのかわからないので、空虚を埋めるため青龍寺は新しい遊びを考える。


 そこで始めたのがアヤカシを「絵」として集めることだった。


 常人には見えないアヤカシだが、あらゆるところに存在していて、一体一体の姿はほかの生き物と同様に異なっている。醜く恐ろしげな個体もいれば、美しい個体もいて、ユニークな存在だ。


 青龍寺は多くのアヤカシ対峙たいじしていくうちに、不思議な造形をしているアヤカシを絵として残せたら面白いかもと興味をもつようになる。


 それからは行動が早く、どうすれば絵に変えることができるかを調べ始める。史料をあさったり、自分で呪術をかけたりして試行錯誤したあと、霊力チカラを利用して、アヤカシを水墨画に変える呪術を身につける。


 呪術が自在に使えるようになると、暇つぶしと趣味をかねて、青龍寺は自分好みのアヤカシを見つけたら「狩り」をするようになった。


 アヤカシを捕えたら呪術を使って「絵」に変えて鑑賞する。一枚、二枚……と増えていくうちに楽しくなり、好みのアヤカシたちを蒐集しゅうしゅうしていく。絵の数が多くなると、鑑賞しやすいように御朱印帳に貼り付けるようになった。



 普段の青龍寺は面倒くさがりだが、自分の趣味となると苦労をいとわなくなる。気に入ったアヤカシを見つけると、彼は狩りを始める前に入念に準備をする。


 アヤカシはたいていは人の近くに存在する。人がもつ「妬み」「恨み」「怒り」「強欲」など、負の感情によって生み出されたり、引き寄せられたりするからだ。そのため青龍寺がターゲットに定めたアヤカシも、人のそばにいることが多い。


 ターゲットにしたアヤカシが人にいている場合、青龍寺はその人物の行動を調べ、人目ひとめにつかずに狩りができる場所を絞りこむことから始める。憑かれた人がアヤカシの行動次第で、怪我けがをしたり最悪は命を落とす事態となることもあり得るからだ。


 誤解のないように言っておくが、青龍寺は他人が傷つこうが死んでしまうことにはなんとも思っていない。人が巻きこまれたことで、事件や事故に発展した場合に、自分に飛び火しないように用心しているのだ。


 青龍寺が狩りのときにつける狐面、「中二病かよ」とつっこみを入れたくなるが、これも計算ずくだ。面は祭りなどで見かける狐面で、平時はかなり目を引く。青龍寺はこの特性を生かして、姿を見られたときに狐面の印象を強くして、詳細部分を知られないようにしている。


 しかも手袋をして指紋を残さないことにも気を配っており、狩りの『場』から足がつかないよう対策し、身を隠せる場所やいざというときのために逃走経路も用意しておく。


 万が一、身元が割れたとしても逃げる手段はつくっている。


 青龍寺がアヤカシの狩りを決行する場合は、直接手を下すことはせず、白銀のキツネを繰り出してキツネに狩りをさせる。


 キツネは常人には見えないため、周囲からすれば青龍寺はただ見ているだけの人としか映らない。それに…… たとえキツネが視えたとしても法で罰する手段はないのだ。


 用心深くて狡猾な青龍寺はアヤカシ狩りを続けていて、何枚もの水墨画を集めてきた……。




(へえ……。面白いアヤカシを連れているやつがいる。

 暇だし、あのアヤカシをオレのコレクションに加えるか)


 電車を使って移動していた青龍寺は、偶然にもお眼鏡にかなうアヤカシを見つける。予定変更してビジネスパーソンのあとを追った。


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