第4話 狐面の男「ひねくれた主人公」

狐面の男(1)

 この小説の主人公・青龍寺しょうりゅうじが通う大学の学生に、「青龍寺はどんな人?」と質問したら……


 ・リーダータイプだけど横柄さがない

 ・身だしなみがきちんとしていて安心する

 ・ぶれないから信頼できるし安定感がある

 ・誰とでも話せるし聞き上手でコミュ力が高い

 ・友人が多くて人気がある

 ・悪いところもあるが一線は越えない


 ――と回答あり。


を通すようなところもなく、堂々としていて安定感がある。

 自然と人を引きつけていて、友人にしたいタイプ」


 ――ですって。


 リサーチを続けると、どうやら青龍寺の外見や言動から好感を得て、頼れそうだからとボス格扱いになっているようだ。列挙された項目を見ると確かにそうだと納得できるものもあるが……。


「いやいやいや! ちょっと待ってください! 『友人にしたい』?

 それはおすすめできません! 見てるだけがいいですよ!」


 ――私は止めます。この男は作者が心配になるほどひねくれている。




(人間って、つまんねえ。

 自分のことだけ考えてて、特別で価値があると思いこんでいる。

 他人を利用して蹴落としているくせに、被害者ぶってて……

 どんだけ醜いのか考えもしねえ)


 ホームで電車を待つ人たちにまぎれて、冷めた目をした青龍寺 たまきがいる。彼は表向きはどこにでもいる大学生だ。


 若者らしくおしゃれに気を使って、暗めの茶髪に染めた髪は、清潔感をもたれるように整え、服装は流行はやりを取り入れつつも、悪目立ちしないよう個性を抑える。


 身長は178センチで中肉中背、運動でもしているのか引き締まっている。目鼻立ちはハッキリしているほうだが、飛びぬけて目立つわけではない。


 青龍寺は、表社会では『目立たずに楽しく生きる』をモットーに実行している。おおやけには言えないことも含めて、おおよその大学生が願望としてもっていることのほとんどを達成してきている。


 自分が嫌だと思うことには興味をもつことはなく、『自分が楽しめるか』を基準にして物事を取捨選択し、とくに快楽を重視する。


(このドラッグ、噂どおりハイになるのが早い!

 ぶっ飛んで気持ちがいいぜ。

 イイ感じで性欲上がるし、ヤるときも快感が全然違う! サイコーだ!)


(あの女、顔がいいな。付き合ってみるか。

 ……チッ、体の相性が悪い。別れるか)


 自分が気持ちいいことが大好きで、違法になる前のドラッグには平気で手を出していたし、気分を上げるアルコールはもちろん好きで、性欲も強くて快楽に興じていた。


 気に入った女性を見つけると臆せず声をかけていき、飽きてきたら後腐あとくされなく別れるよう流して次へと移る。


 人間関係については、争いはバカがすること、未練をもたせるのは面倒のタネと思っている。


 争いになるようなことは面倒くさがって避け、相手に合わせてうまく流す。付き合っている人と別れるときは、相手側が振るように仕向けていく策士ぶりだ。


 うわべだけの友人は大勢いて、どんな人物とでもばか話をしたり酒を飲んだりできて、楽しむフリがうまいから円滑に交友する。


 愛想を振りまくのは得意で、人の感情を読むことにもたけているから、大学教授やバイト先の社会人など、周囲からは好青年と見られてかわいがられる。


 無駄な敵をつくらず、楽して生きるために使える駒をつくるコツを青龍寺は知っていた。




 人間関係は円滑、学業成績もそこそこ、身なりからお金にも困ってなさそう――


 周りからは日々を満喫しているように見える青龍寺だが、彼自身はそうではないようだ。青龍寺は一人になったとき、自分の中に空虚を感じて、生活に現実感がわかない瞬間がたびたび訪れる。


 今、ここに自分はいるはずなのに現実味がない。目の前のシーンは変わっていくが、映画のように遠くにあるもののようで、同じ空間に存在しているものとして感じられず、なんの感情もわいてこない。


 酒に酔っているときやセックスしている間は、心拍数が上がって気分が高揚し、感覚も鋭敏になり快楽も高まって充足感を味わう。しかしことが終わると一気にめて、虚しいものになっている。


 享楽にふけている間は、自分の中にある空虚は感じられなくなるので、青龍寺は「快」を求めていろんなことをやってきた。しかし、どれもすぐに飽きてしまって長続きしない。


 「快」を失うたびに空洞は大きくなり、その穴を埋めるために、より大きな「快」が必要となってきている。


(なにが欲しいのか

 一体なにが足りていないのか

 なぜこんなにも孤独を感じるのか

 どうすれば充足感を得られるのか――)


 わからないまま年月が経ち、今も答えが出ないままでいる。


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