呪具(5)
数十分後――
バイクの音がしたあと、駐車場から男がやって来て、玄関先で待っていた
現れたのは先ほど桂が電話をした
「貸しだからな」
「……祓ってやってくれ」
「いいけど、オレのやり方に口を出すなよ」
「わかった」
居間で待つ両親は、桂から住職が不在で自分では対処できないことを告げられ、代わりに対応できる人を紹介すると言われて承諾していた。
青龍寺が居間の
そんな修羅場となったところに青龍寺が入ってきたので、両親は期待の目で彼を見た。ところが青龍寺は冷ややかな目をして質問する。
「あのさー、いくら払ってくれるの?」
「……え?」
緊迫した状況はわかっているはずだ。両親は青龍寺の第一声が「カネ」だったことに聞き違えたのかと思って、ぼうぜんとして彼を見ている。
青龍寺は小さくため息をついて、面倒くさそうな顔をしてまた聞く。
「娘さんに
父親は聞き違いではなかったことがわかると、怒りの表情を見せて怒鳴った。
「この状況でカネのことか!!」
「当たり前だろ? 仕事だからな」
悪びれない青龍寺の態度に、父親は自分の娘の身が軽んじられているように思えて、心底腹が立って罵声を浴びせた。
「この鬼畜が! 人の心はないのか! 娘の身が危険にさらされているんだぞ!!」
「あー、そういうのいいから。
早くしねーと、そいつ、もっと力を増して自分を傷つけ始めるぞ。
で? いくら出すんだよ。娘の値段だろ?」
父親は青龍寺の非道ぶりに怒りに達していて言葉を返せず、歯を食いしばってにらみつけている。そこへ割って入るように母親が青龍寺に話してきた。
「いくらでも出します! 額を言ってください」
「お母さん、話がわかるねえ」
青龍寺はニヤリと笑って「100万」とさらりと言った。
母親は口に両手を当てて言葉もなく青ざめ、父親は「なんだと!」と声を荒らげる。廊下でやり取りを黙って聞いていた桂だが、たまりかねて青龍寺に言う。
「おい、いくらなんでも高すぎるだろう!」
青龍寺は桂を見て、あきれた顔をして話し出す。
「夜にいきなりやって来たあげくに、こんな面倒なモノをすぐに祓えると思った時点で非常識だろ。100万でも安いくらいだぜ?」
青龍寺はそう言い放って桂の介入を止める。それからニヤリと笑うと、楽しそうな顔つきをして父親のほうを向いて言う。
「おっさん、浮気してるだろ」
娘を押さえている父親は青龍寺の言葉にビクッと反応して顔色が変わる。
「な、なにを言ってるんだ、おまえは。失礼なやつだな。浮気なんかしていないぞ」
「嘘言うなよ。おまえの娘が拾ったもんはな、『呪具』だよ。
わざと娘が拾う場所に置いたんだろ。
ソレには奥さんと娘さんが死ぬように『
愛人サンが二人を殺して後釜に座ろうって算段だ」
ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべながら青龍寺は父親を見ている。黙って聞いていた母親はキッと夫をにらむ。
「やっぱり浮気していたのね!
わたしに嘘をついただけでなく、アイまで巻きこむなんて!!」
母親は父親に対して今にもつかみかかりそうな鬼の表情をしていたが、娘が獣のようになった姿を見て、怒りを抑えて青龍寺に
「お金は払います! だからアイを助けてください!!」
「ば、バカ! ぼったくりだろ!!」
「うるさい! あなたのせいでこうなったんでしょ!」
やさしそうな妻の姿はどこにもなく、夫をにらむ姿は怒りの表情が浮かび、敵でも見るかのように憎しみがこもっている。だが娘を見る目は母性にあふれており、なにがなんでも娘を助けようと必死だ。
「よーっしゃ、商談成立。んじゃ、始めるわ」
青龍寺は右肩をグルグルと回し始めて指示を出していく。
「桂、おっさんと代わってその子を押さえていて。
あと、その子の右手がオレに見えるようにしてくれ」
桂は言われたとおりに父親に代わって娘が暴れないようにする。それから後ろ手に縛られている娘の右手が青龍寺に見えるように向けた。
青龍寺はおもむろに娘に近寄っていき、彼女の右手人差し指あたりでなにかを捕まえたしぐさをすると、引き抜くように腕を大きく振る。すると人差し指からズルリと半透明の女の姿が現れ、続けざまに大きな黒い犬も出てきた。
引きずり出されたように現れた半透明の女は、倒れこむような姿勢で
トンッと畳に物が落ちた音がしたので、そこを見やると娘が拾った
「桂、終わったぞ」
青龍寺が言うと、桂は拘束していた娘の腕を解いて横にする。母親は驚きの目で勾玉を見ていたが、すぐに
「アイ! アイ!」
呼びかけるも娘の反応はなく、母親は心配して体をゆすっている。
「しばらくすると目を覚ますから心配はいらない。振り込みはここに。じゃ」
青龍寺は名刺サイズのメモを渡して部屋を出ていく
父親には自分の娘の指から出てきた女に見覚えがあった。彼女は父親が勤務している会社の受付嬢で、青龍寺の言っていたとおり、ずいぶん前からの浮気相手だ。ここ数カ月、しつこく結婚を迫っていたので、そろそろ別れようと思っていたところだった。
「生きてるやつの『念』ってのが一番厄介なんだよ。
ヤバイことするなら相応のリスクがあるっての」
青龍寺は冷たく言い放って部屋を出ていった。
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