私は電車が、好きで嫌い。

花沢祐介

私は電車が、好きで嫌い。

 日曜日の午後8時。

 私は駅のホームに立ち、電車に乗った彼と対峙している。


 彼は毎週金曜日の終業後、電車に乗って会いに来てくれる。そして日曜日の夜、自分の家へと帰ってゆくのだ。


「じゃあ……また来週」

「うん」

「そんな顔しないで」

「うん」


 私はいつも、何も言えなくなってしまう。そんな私を見て、彼はいつも優しく微笑んでくれる。


「2番線、ドアが閉まります。ご注意ください」

「駆け込み乗車は危険ですので、お止めください」


「またね」

「うん、またね」


「閉まるドアにご注意ください」


 電車のドアがゆっくりと閉まってゆく。


 私は今、電車が嫌いだ。

 日曜日の夜、彼を遠くの町へ連れていってしまう、この電車が嫌いだ。


 何で彼を連れて行ってしまうの?

 明日の事なんて忘れてしまいたいの。

 私はいつも、電車の窓越しに彼を見送ることしか出来ない。

 彼はいつも、嬉しいとも、悲しいとも言えないような顔をする。

 胸が苦しくなる。言葉にはできない痛み。

 ホームに一人残された私は今、電車が大嫌いだ。


 でも……二日前の私は電車が好きだった。

 金曜日の夜、彼を遠くの町から連れてきてくれた、この電車が好きだった。


 今日も彼を連れてきてくれてありがとう。

 昨日までの事なんて忘れてしまいそう。

 私はいつも、彼の顔を見たいのに真っ直ぐ見ることが出来ない。

 彼はいつも、少し眠そうな顔でそっと抱きしめてくれる。

 心も体も温かくなる。言葉にはできない幸せ。

 ホームで二人きり、彼と手を繋いでいた私は、電車が大好きだった。


 そう。


 だから私は、電車が好きで嫌いだ。


 日曜日の午後8時。

 ついさっき二人で仲良く歩いた道を、今度は一人で寂しく家まで帰る。


 彼は、来週へと向かってしまった。

 私も、急いで向かわなきゃ。


 重たい足取りに力を込めて、私は来週いえへと向かい始めた。


 まるで他人事のように、電車の走る音が辺りに響いている。

 どうしてだろう、見上げた夜空が広く感じた。

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私は電車が、好きで嫌い。 花沢祐介 @hana_no_youni

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