おいしい水玉
人外と人間を区別するものが見えるようになった。具体的に言うと、本来の中身が水玉に包まれて、人間になった人ならざるものたちの横をプカプカ浮いているのが見える。骨や肉やその他が入った透明な風船だ。細胞分裂中の両生類の卵のようでもあるが、色々なパーツが入った水風船が見えるのだ。
私は散歩をしている。今通りがかったスーツ姿のビジネスマンの横には、赤みがかった毛の塊と骨、臓物が入った水風船が浮かんでいた。毛の塊の先が白かったのを見るに、本性は狐だろう。
「よう、調子はどうだい」
「ぼちぼちやってますよ」
いつも通り話しかけてきた酒屋の店主は、気のいい男だ。実はこのおっちゃんも人外らしく、角張った顔の横には、ガチャガチャのカプセルぐらいの大きさをした、水風船が浮いている。中身はカエルのようだ。恰幅のいい見た目からは想像もよらない小さな本性で驚いたが、視えていることは相手には分からないらしい。そのため、これまで通りに接している。
「あら、ごきげんよう」
海岸線ですれ違ったお淑やかな女性の横には、特大の水風船が浮かんでいた。中には大きな骨と臓物と鮮やかなブルーの鱗やヒレが入っていた。しかし、心臓や目玉に当たるパーツはなかった。ということは、彼女は人魚だろうか。この能力には、副産物的に架空とされている存在の実存を見抜く力まであるようだ。なんとおいしい。しかしまあ、どこに発表してもどうにもならなそうなので黙っておくが。
ある日、見えるなら包めるんじゃないか? と思い、私は缶詰のパイナップルや黄桃を皿に入れ「えいや!」と言ってみた。すると、果物はたちまちシロップごと宙に浮き、球体になった。球体に手を伸ばすと、なんと触れることが出来、シロップの表面はプルンと揺れた。そのまま手に持って、シロップの球をジップロックに入れた。やることは決まっている。私はジップロックを冷凍庫にしまい込んだ。きっと二、三時間も待てば、美味しい氷菓が出来上がるだろう。
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