黄金のネクロマンサーNoa

 話は少し前まで遡る。

 タケルが演説を始めた辺りだ。



 やっぱ弟くんは私の手のひらで踊ってくれた。

 愛してるよタケルくん。

 私の計画通り動いてくれてありがと。


 私は今の世界を変えたかった。

 でも、今の人間にそれは無理だと思っていた。


 結論から言うと私は世界を反転させるつもりでいた。

 私が制作したマシンメトリィに台頭だいとうされている現在、同じだけの人間も存在する。

_まずこの方々には、、

 消えてもらってもいいと私は考えていた。

 言ってわからない人を残すより言ったらわかる人を残す方が効率的だと考えていた。


 ずっとタケルには人類の平和が最優先だと教えていたのに。

_わかって貰えなかったようだ。


「残念だな」


 最悪の場合、タケルを殺さなくちゃいけなくなる。

_その時はその時で。


 生まれてこなかった人も、生まれてこれなかった人も皆揃ってマシンメトリィにインストールした。

_それに切り札もある。


 あとは全面戦争になるかな。

 そこは望まないとこだけど、この際仕方ないか。

「そこまでです」

_どこから現れた?

 私の魂は今、垣内天音にインストールされている。

 頭の回転に特化した咲枝天音と違い気配を読むことに特化した垣内天音。

 それなのに感知できなかった。


 空間制御システムはタケルにしかできないはず。

「センパイの邪魔はさせませんよ。おばさん」


 チャキッ


 今さら私に敵意むき出しにしてくる人なんて珍しい。

 女は私の首筋に銃を突きつけてまっすぐ睨みつけてくる。


 タケルを好きな人なのかな?

 じゃああとは任せられるね。

 ただしタケルは競争率高いから気をつけなよ?

 アイツなかなかモテるからさ。

 そんな私の言葉をキレイに躱した女は構えたまま、


「あなたの技術はまだ人間には早い」

 知ってるんですよ。

 この騒ぎあなたを殺せば止まりますよね?


「だと思うでしょ?」

 そんな引っかけに乗りませんよ?

 最初から最後まで胡散臭い詐欺師みたいな人の言うことなんて。


「本気なんだ?タケルのこと」

 えぇあの人はスゴいですから。

 目指すべき人です。

 私はあの人のことを、

「付き合ってもない彼女持ちの男にどうしてそこまでできるの?」

_!


 マシンメトリィの演算能力なら私の傷も知り尽くしているか。

 うずく胸を掴むように抑え後ずさった私は、

「それでも構わない。私はあの人を助けたいんです。大好きだから」

 あの人は私にとって生命より、、

「魂より大事な人なんです!」


 あらそれは残念ね。

 たった今全国の天音とのリンクを解きました。

「そこまで覚悟が決まってるのにどうして私を殺せなかったのかな?」

 今一歩足りなかったみたいだね。

 見たところキミはマシンメトリィじゃないみたいだけど、是非とも生身でラスボス倒したかったよね。

 その皮肉に悠々と女は


「えぇですから死んでもらいます」



 上空に向かって銃を放つ女。

 その瞬間そばにいたみよのマシンメトリィから

「姉さん!」

 タケルの声が響いた。

_!

「流石のあなたもここは手つかずですよね?」

 ユリの能力か。

 ギリギリと歯を食いしばる垣内天音。

 それを横目に女は何発も銃を撃つ。


カシャカシャカシャカシャ


 撃ちきった弾をタイプの違う弾丸に変えて、

 ユリちゃんのテレポート能力をこの銃に応用させてもらいました。

 タケルさんには悪いですが、ユリちゃんとヒミツで訓練してました。

 ユリちゃんの能力を使えるようにしておいたんです。

「そろそろトドメです」


「待ってそれは!」


 ドンドンドンッッ


 重い銃声の後、

「姉さん、、そんな」


 きっと目の前で消えていく姉さんの姿に落ち込んでいるだろう彼の顔を思い浮かべて、

「ごめんなさい私、、は」

 装填された弾丸は先の弾丸とは違い当たれば元素分解するようにできていた。


「姉さ「私はいいんだよ。こうなるならそれで。でもタケルあとはお願いね」

 元素分解にそれほど時間はかからない。

 だから言葉を遺す余裕はなかったみたいだ。


ニマァ


「あぁあやっちゃった」


 そこにはゾッとするような笑顔を浮かべた垣内天音がいた。


 つまり彼女がいうにはこうだった。

 タケルの心は私のもの、タケルの体はみよのもの、そしてタケルの魂は、、


「今タケルは私の思うままに動いている。

 私は全国の天音とリンクを解いた。

 そして私はここにいる。

 だからたとえ咲枝天音を元素分解したとしても私には届かない」


 そんな、やる前に負けていた?

 愕然とする横で彼女は私の耳元に

「惜しい。世が世ならキミは天才だったよ。

稀代の名勇アリエス・ルゥに並ぶほどの」


 褒め言葉がこんなに恐ろしいと感じたのは生まれて初めてだった。

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