伝説の聖剣

 かつて職人が作ったものには魂が宿るとまで云われていた。

 それは時に精霊として、悪魔のように、神の如き力を宿して。


 伝説の職人アリエス・ルゥ。

 歴史上に名を刻むその人物は300年前の世界で伝説の武器に文字通り生命を吹き込んでいた。

 その数およそ100万種類。

 後世の研究でもう少し減ると思われていたものも含めての話だ。

 彼女の作った魔装具まそうぐは今も生き続け、同じく聖晶具せいしょうぐもその封印を続けている。

 魔を封じるには同等の聖が必要と多くの勇者達やその武具が使用された。

 伝説の勇者によって弱体化するかに見えた力は勇者のリットミールの影光えいこうを受けてさらに強化され、終収がつかなくなったため勇者達はやむを得ず封印を選択したのだった。


 次の世代に残すのは心苦しいとできる限り弱らせてから自らのリットミールを使っての封印となった。


「でも、それは昔の話。いくら私でも確認のしようがないし」


 今ここにいるのがその人だという保証がない。


「私は別にこんなに生きるつもりはなかったんだがな」


 いくらなんでもそれで説明はつかないよ。

 別にマシンメトリィに魂をダウンロードしたワケでもないんだからさ。

「流石にグリスは健在か」

 魔剣グリスグロッサム。

 一応魔王討伐のため勇者と共に闘った聖剣の一つだという。

_あぃ?

 自分で言っててわからない。

 のでもう一回言ってみる。

 魔剣、グリスグロッサム、魔王討伐のため、勇者と共に闘った、聖剣、の一つだという。

_あぃ?


 もっかい言ってもわからなかった。

 どっち?魔剣なのか聖剣なのか?


「魔剣で間違いない」


 あの時は特殊だったんだ。

 そうせざるを得なかった。


 勇者達だけでは勝てる気しなかったから、魔剣やら聖剣やら魔法陣やら色んな手を使ってようやく封印までこぎつけたという。

 しかし、それでもちゃんとできたとは言い難い。


「それじゃまた出てくるかもしれないの?」


「       」


 ちょっと!言いかけてやめないでよ。

 可能性ありってことか。

 私もできる限りのことはするけど、マシンメトリィは戦うことはできないからね?


「それで構わない」


 それでなんで生き残ってるの?


「それはコイツのせいだと思っている」


ジャラ


 やっぱりかぁ。

 しか考えられないもんね。


 アリエス様の胸元に光るのは熟成したリットミール。


 元々ピンクの美しい輝きを放つリットミールが紅色の混ざった黒に染まっていた。


「だいぶ染まってるね」


 あぁグリスを打った時に少しな?


「病んでたの?」


 「あぁ」と頭を抱えたアリエス様。


「ところで頼みがある」

 ん。なぁに?

「私にマシンメトリィの使い方を教えて欲しい」


「高くつくよ?」


 正直最終調整版マシンメトリィでも、アリエス・ルゥを入れる自信はなかった。

 それだけこの人の持つ影響力は大きい。

 隣にいるだけで、それをひしひしと感じていた。


 300年前の世界で一番の影響力を持っていた人。

 いつもの軽口が何とか出る程度。

_この私が?

 最終調整版マシンメトリィにインストールされている垣内天音なのに。

_やっぱり完全じゃないとこの人は無理だ。

 それでも素体より優れたこの体が根負けすることは考えにくいはず、、

_流石歴史に名を刻んだ人だね。

 ぴりぴりする肌を抑えながら、私はどうやってアリエス・ルゥをインストールするかを考え始めた。


 基本的にマシンメトリィは素体、つまり本人からサンプルを採ってそこから培養する。

 だから拒絶反応などの異常も少なくてすむ。

「やっぱりそれしかないか」

 基本に忠実に応用していくしかない。

 アリエス・ルゥの細胞から最終調整版マシンメトリィを作るしかないか。


「ちょっと難しく考えるようになっちゃったな私も」

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