置いてかないで

 私だけ残ってどうしたらいいのよ。

 全然涙が止まらなかった。

 床にへたり込んでその床を力の入らない拳でポカポカ殴りながら、涙でびしゃびしゃにして蹲っていった。



 タケルのことだ。

 きっと帰ってくるつもりだ。

 ただこうしないと姉さんが止まらないと思ったから仕方なく自分を差し出したんだろう。



 それにしたって急には受け入れられないよ。

 たしかに打ち合わせなんかしてたら姉さんがどこで聞いてるかわからないからあえてやらなかったんだろう。




「ッでも、、これは、なぁ、、」


 もっと一緒にいたかったなぁ。


 周りの4人は何も言えず、私を見ていた。



 別に裏切られたワケじゃない。

 言い聞かせてるようにも聞こえるかもしれないけど、別にそんなつもりもなかった。


「あの、こんな時にごめんなさいね。

みよさんだったかしら?はじめまして」



 住凪社長が私の様子を伺うように声をかけてきた。

 別にこの人に恨みはそんなにない。

 どうせあの姉さんに騙されて調子乗っちゃっただけのことだろう。

 あれだけの才能を目の当たりにすれば誰だってそうなる。



 けど、姉さんがタケルをスムーズに奪えるように仕向けたのは許せない。

_だから。

「なんですか」

 顔も上げず目もそらしたままそう言った。

「そうよね。あなたにとって私は敵みたいなものだしすぐは許して貰えない。でも聞いて欲しい。

タケルさんはあの感じだと、みよさんなら気づいてくれると思ってあとを任せたんじゃないかしら?

タケルさんは自分が行く条件として全マシンメトリィとみよさんをここに残すことに何か意味を持たせたんだと思うの」





「頭の回転の早いみよさんなら、自分が気づかない何かに気づいてくれる。

それに気づいたみよさんならこの場にいる全員を使ってでも、事態を好転させてくれる。

そう信じたんだと思うの。

心当たりはない?」



 心当たりは、、ある!

 全マシンメトリィというならきっとアレだって、それにソレも使えるはずだ。



「回ってきたみたいね」

 まだ涙は止まらなかった。

 流しっぱなしででも皆に言わなきゃいけない。



「本社地下にたしか大きな機械室があります!

その鍵を開ける方法を知っている人はいませんか?」

 マシンメトリィのハッキングを避けるために、たしかチェーンでグルグル巻きにしてあったはず。



「そんなことしなくてもパスワードでいいんじゃない?」



「皆マシンメトリィ使ってるからこうした方が確実なんだよ。

マシンメトリィに怪力は出せないからね」



 そうだ。そうまでして守らないといけないものがあの中にはある。



 しかも、私にソレを教えたのもフラグかもしれない。

_もしフラグなら。

 そこしかないと思った。


 ただのボイラー室なんかじゃないはず。

 世界中の視線から逃がれるようにしておく必要がある部屋。


「それならたぶんコレじゃないかしら?」


 住凪社長?

 そうか。最後に一番近くにいた社長が。

「いきなり持っててって言われたから何かと思って」



 星型のキーホルダー?

 何だコレ?

 全然鍵には見えなかった。


 コレの使い方はまだわからないが、とにかく現地に行ってみよう。


「ユリ」


 振り返ると手を差し伸べるユリの姿があった。


「本社ビル内までならいけます」


「ごめん」「ありがとうなら引き受けます」


 言い直すとユリは私をお姫さま抱っこにして、本社ビルにワープした。

 勿論社長二人も連れて。

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