第40話もしかして

 これは遠い昔のこと。

 まだ俺が小さくて何もわかってなかった時の話。


 タケルはさ。

 この世界の最後って考えたことある?

 永遠に生きて世界と一緒に死ぬこと。


「世界は死なないよお姉ちゃん」


 無邪気にそんなことを言ったのを覚えていた。

 でも、生まれたワケでしょ?

 ならエンディングはきっとあるはず。


 とか言ってた姉さんの着眼点は当時の俺にはまるでわからず、まさか自分が同じものを作れるようになるとは思わなかった。



 住凪社長へのハッキングを解いて一息入れていたみよの隣で俺は小さい頃の話を思い出していた。

「今でもわかってないでしょ」

 見透かされながらも俺は、

 みよもな。

 今姉さんが考えていることはわかるか?

 微妙なとこだろ?

 と返してみるが、

「んーたぶん天音さんは出ていくつもりなんじゃないかな?」

 出ていくって?

「わかんないけど、何かそんな気がする」


 聞いてみるってワケにもいかないけど、間に合わなくなったら困るし。


 こんなにふんわりしたことを言うみよも珍しかった。

 そこでみよに思いついたことを聞いてみた。


「例えばなんだが、みよの作ったマシンメトリィと住凪さんの作ったマシンメトリィでは用途が違うよな?」

 住凪社長の作った翠楼すいろうのマシンメトリィは自然を清浄化し、また精霊を味方にする。

 みよのマシンメトリィは動物からサンプルをとって遺伝子情報を組み換え、健康体に再構成させていた。


「教えてくれ。地球のマシンメトリィを製作することはできるか?」


 少し間が空いたあと、


「どーしようできちゃう!」

 やっぱりそうか。

 じゃあ、みよの予感は当たりかもな。

 急ぐぞ!

 姉さんは全部自分のせいにして俺達に地球を追放させる気だ!


 最終調整版マシンメトリィを製作していたのはその実験も兼ねていたのかもしれない。

 とにかく急いで姉さんのところに!



 ユリ!

「二人とも掴まって下さい。ワープします」

 ありがとう!

 片手ずつに俺とみよが掴まって、その瞬間ユリがワープした。


「待ってたよ。時間かかりすぎ」

 二人とも私のことよくわかってると思ってたのに。

 もしかして来てくれないんじゃないかって不安になっちゃったじゃん。


「できたよ。史上最大のマシンメトリィ」


 地球が。

 と俺達を振り返る。


 でかい映画サイズのスクリーンに映し出された地球は何もかもがそのままだった。

 いや、実物は見たことがない俺にはどこが違うかなんてわかりはしなかったが。


「青い」

 んーん。色彩はちょっと変えてるんだ。

 実際の地球は青いけど、私の地球は緑色。

「私社長にお願いして翠楼を何体か貸して貰ったんだ」

 すると緑豊かな地球に育っちゃってさ。

 実用化はまだだけど、良かったら皆一緒に住まない?

 地球より全然環境いいよ?

 変な人も少ないし。いないとは言わないけど。


 まるで姉さんは新しいマンションでも買ったみたいに地球を指さす。


「スタートの時点ではそうかもしれないけど、人間がいればすぐ地球みたいになるよ」


 断ったつもりだった。

「そう思うでしょ?翠楼がいればまずその心配はないし、何より最終調整版マシンメトリィがいれば多くの犯罪は消せる、戦争も少なくなる」

 だからさ。



 伸ばされた手をはたいたのはユリだった。

「私は機械です。だから貴女の言ってることが合理的なのはわかります。

その上で断ります。それはもう人間のやることではない。

あなたは生き物のサイクルを狂わせてまで、何がしたいのですか?

死ぬのが怖い、それはわかるつもりです。

永遠の命への執着もそれなら生まれるのは当然。

しかし、それは本当に全人類の願いなのでしょうか?

中には命に執着のない方もいると聞きます。

やっとの思いで生まれて苦しみ続けている方も、それがマシンメトリィの技術によって治せたとして、アフターケアはどうお考えですか?

そこを医療用マシンメトリィに任せるのは違うと思いますし、仮に身寄りのない方だった場合、、」


「あぁやめろやめろ!もう姉さん泣いてるから相手は生身の人間なんだよ。な?」

 流石にしくしく言い始めた姉さんの肩を抱いて宥めた俺はユリを止めた。


「何で止めるの。ちゃんと言ってやらないとこの人本当にやるよ?」

 止めた俺を止めに入るみよ。

「うんする」

 涙を拭いながら姉さんは、

 スクリーンを空中タップ。

「え?」

 スクリーン上に時間が表示された。


「姉さんこれは何の時間?」

 恐らく姉さんにとってユリの発言はイレギュラーだ。

 今の抵抗は予想していなかったんだろう。

 誰に何と言われようとやろうと決めていたことがあったと見るべきか。

_カウントが減ってる。


「姉さんは俺が断っても無理やり連れていくつもりだったのか」

 みよも俺も全マシンメトリィも。


「みよ好きだ」

 俺はすぐさま隣のみよの手を握り、


 何言ってんだよ!こんな時にお前は!

「その面白いクセどうにかしろよ?」

 そう言って俺はみよの手を離し姉さんの手をとった。

「待て!待ってよ!」

「姉さん。俺を人質にしてくれ」

 その代わりみよと全マシンメトリィはここに残して欲しい。


「わかった。あとよろしくねみよちゃん」


「バカヤロー!」


 みよの絶叫とともに俺と姉さんは画面上のマシンメトリィアースへ転送された。


 カウントはあと2時間も残して止まった。

 たぶん姉さんは俺が答えなかったら自動的にマシンメトリィを含む全人類及び生物を転送できるようにしていたんだと思う。

 そのあとは地球環境を翠楼で治して再転送。

 一体何年後を見据えた計画だったのか。

 俺とのアオハルか、人類の平和かの二択ってバランス悪すぎだろ。

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