第38話世界の形
姉さんが出ていって数ヶ月。
俺は殆ど眠れていなかった。
みよがあの手この手で俺の眠りを促すが効果は薄かった。
「結局俺はどうすればいいんだろうな」
すぐ隣で彼氏が他の女のことで落ち込んでいるのはさぞ見るに耐えなかっただろう。
終いには頭ごと抱きしめられて、
「私じゃ嫌なの?どうして姉さんなの?」
と泣きながら問い詰められた。
それでも俺は答えることもできず、
腑抜けた目をしていた。
「愛してる。愛してるよタケル!お願いだからこっちを見て!」
「みよ」
自然と涙が流れ意識が戻ってくる。
「ありがとう俺が今やることは腑抜けることじゃないよな」
そうだ。
姉さんがなぜ今出ていったかもわからない以上、腑抜けている場合ではない。
姉さんは世界最高峰のマシンメトリィにインストールされているんだ。
たとえここにいなくてもハッキングはできる。
_人間の意地を見せてやる。
「みよ頼みがある」
それだけでみよには内容がわかったらしくニコニコしながらパソコンを起動した。
起動したパソコンを手早く操作して手打ちでプログラムを打ち込むと、
「たぶんあの人のことだここにいると思う」
そのビル内へ流れるように入り込み姉さんのすぐ後ろにいたマシンメトリィをハック、操ることに成功した。
「いらっしゃい待ってたよみよちゃん」
みよちゃんならそんくらいは普通だもんね。
んでそっからどーすんの?
姉さんは特に振り向きもせずに尋ねる。
私は人間だからね?マシンメトリィじゃないんだよ今。
言われてみればそうだ。
睡眠薬の元素分解をマシンメトリィに任せて人間に戻っていたんだ。
_いや待てよ?
それなら逆に好都合じゃないのか。
人間である姉さんにはマシンメトリィ同士の会話は聞こえない。
テレパシー機能がない。
_一か八か。
住凪社長。聞こえますか?
あら私に来たら敵の動きわかっちゃうわよ?
バカだというのはわかっているつもりです。
でもこれしか方法はありません。
今すぐやめて貰えないでしょうか?
私がやめても姉さんはやめないわよ?
でしょうね。
でも止めなきゃ。
逆にどうして姉さんを止めるの?
彼女は悪いことをしようとしているワケではないのよ?
皆の望みを叶えてあげようとしてるの。
そのために死んだ人を蘇らせるのは生命に対する冒涜ではないんでしょうか?
では聞くけど、それって誰が決めたの?
いつの間にかそれが常識になってたんじゃない?
そんな出所のはっきりしない情報を当たり前にして、ホントはもっと生きられたかも、ホントはもっと健康だったかも、ホントはもっと幸せだったかもしれない人まで殺してしまえる世の中が正しいワケ?
でも、、
今まではその当たり前に従うしかなかった。
けど、天音博士はその当たり前を覆したのよ。
もうすぐ完成するわ。
私と天音博士の共同プロジェクト、
最終調整版マシンメトリィが。
そしてここに悔いを残した魂をインストールすればほら、、
「おはよう。初音姉さん」
白い髪がさらさらと揺れるその少女はゆっくり青い目を開いた。
マシンメトリィには病院着を着せてあった。
「流石にまっ裸ってワケにいかないからね」
今はこれでガマンしてよ?姉さん。
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