第34話4歳の私

 生まれてすぐに未熟児だと判定された私は4歳になるまでまともに何もできなかった。


 比喩でも何でもなく本当に。


 「はいはい」どころか腕すら動かないまま、マイナスからのスタートだった私に「またか」という空気が浴びせられた。


 その私が腕が動くなり描いたのがマシンメトリィの設計図だったワケだから両親はそりゃ意味がわからなかっただろう。


 それが何かの設計図とわかるまでどれほどの時間を費やしたか。


 両親は焦りもしたし、言葉も足も動かない我が娘の訴えがわからないことに憤りさえも禁じ得なかった。


 生後間もない長女を失い、次女までもこんな様子では先は知れている。


 二人は三人目を考え始めていたことかもしれない。


 私自身も焦っていた。

 当時は夢中になっていたから意識はなかったが、後から思えば部屋を塗りつぶすなど正気の沙汰ではない。


 だが、その甲斐あって無事マシンメトリィは完成した。


 気がつけば遅れた分の成長も取り戻し、人より先へ進んでいた。


「世界を征服するのは目的じゃなくて手段なんだよね」


 咲枝社長はそこのところはわかっていなかった。


「私は世界の平和が欲しい。

できればタケルや皆とその未来を見たい」

_でも。

 難しいんだろうな。

 私はやっぱり何をしても未熟なまま。

 ほんの少しタケルと長く一緒にいられただけ。

「ダメだ。どーしてもそれじゃ満足できない!」

 自分を納得させるために無理やり言い訳までしたのに!


 このまま自然死なんておかしい!

「まだだ。まだ負けられない!」


バン


 ここのところ姉さんの様子がおかしかった。

 自室で何かしてるのはわかったけど、よく壁を殴る、蹴る、悲鳴を上げる、あまりにヒドいので様子を見に行ったら泣きながら抱きつかれた。


「タケル助けて!怖いよ!」


 やっぱり無理なのか。

 天才の姉さんでも。

 自然死をなくすことは。

 俺はしがみつく姉さんをあやしながら、そう考えていた。


 姉さんはマシンメトリィの金型を制作する過程で人間、動物、植物、昆虫に至るまで様々な知識にまで手を付けていた。


 スマホをメモ帳にして単語を記録しながら図書館、大使館、大聖堂など情報の集まるところをそれこそ毎日巡っていた。


 それでも集まる情報は一人では追いきれない。

 そこはマシンメトリィに手を回してもらって、何とか人類の叡智の粋を集めた。


 姉さんはまだ若い。

 しかし、時間なんてあってないようなもの。


 人生なんて瞬きの如く過ぎていく。


 その一瞬を思えば焦るのも当然ということか。

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