第29話征服される側の

 姉さんが倒れている間のことを少し話しておこうと思う。

 結論から言って社長が姉さんの言っていた通りのことをした。世界征服だ。

 しかも、姉さんが予め用意した仕掛けを使って勝手に。

_ふざけんなよ。

 とは思うものの俺は姉さんのことが心配でそれどころではなかった。

 みよもこちら側についてくれていた。


「大丈夫あの姉さんのマシンメトリィだよ。

こんなことで死んだりしない」


 普通なら致死量の睡眠薬。

 でもマシンメトリィなら分解できるんじゃないかと医療用マシンメトリィに診てもらっていた。


 まさかマシンメトリィ相手に病気の心配をしなければならないとは思わなかった。


 相手は体内でワクチンを作れてしまうようなヤツだ。

 ソイツがこんなことで死んだりするはずがない。

 開発にも携わっている俺はそれをよく知っていた。


 だが、何か引っかかる。

 そもそも姉さんがなぜその程度の罠に引っかかったのか?

 いつその罠に引っかかったのか。

 ずっと俺とみよ、それにみよのマシンメトリィ、それとユリもいた。

 もっと言えば社内だった。

 そんなものを飲ませる隙は、、

 給湯室やトイレくらいは普通に行っていた。


 しかし、社長は男だ。

_誰か仲介役が?

 いや、それもあり得ない。


 社内には姉さんのファンしかいなかった。

 もしもの時のためにファンを集めて会社を作っていた。姉さんはその上俺とみよを巻き込んで会社を設立していた。


_では誰が。


「煮詰まってるかい少年?」

「ねぇ「ごめん私。冗談が過ぎた」


 久しぶりだった。

 こんな風にみよが声をかけてくれるのも。

 このところ口もきけていなかった。

 仕事のやりとりをカウントしていいなら別の話だが。

_それは違うだろうからな。


「私さ。あの人ならできると思うんだ」


 みよは近くの自販機でカップコーヒーを買って俺に渡しそう溢した。

 目はそらしたままだ。


「嫌いな人だけど、尊敬はしてる」


 誰にでも笑顔を振りまくことができるところとかめちゃくちゃ嫌いだった。

 でも、そこにいくまで色々あったんだよね?


「いやたぶん「違うって言うな空気読め」


 ごめん。

 たぶん本人にその自覚はない。

 そんなことよりマシンメトリィだっただろうから。


「今は社長が乗っとる形で征服しちゃったけど、私はあの人が征服した世界を見てみたい」

 口だけで笑ったみよは最後まで俺の方を見ずに言うのだった。


「変なこと言ってるかな?私」


 俺は何も応えてやることができなかった。

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