第20話大好き

 私達は結局天音を養子に出すことにした。

「いいんですか?あなたたちの大切な子供を」

 その言葉にズキリとしつつも、

「いいんです。天音には言わないで下さいね」

 咲枝さきえださんはゆっくり頷いて、

「わかりました。必ず迎えにきてあげて下さいね?」


「またね。お姉ちゃん」


サクッ


_やっぱ実の娘の言葉はかなりくるものがあるなぁ。


 それから20年近くが経っていた。

 忘れていたワケじゃない。

 忘れるワケがないじゃないか私が大好きな人に抱かれてできた子供のことを。

_ここ重要。

 大好きな人は何物にも代え難い。


 何度も会いに行こうとした。

 何度も会いに行くチャンスもあった。

 それでも会いに行くことはできなかった。

 会いに行くのを躊躇う気持ちは勿論あった。

 それを飛び蹴りする会いたい気持ちと闘いながら、私はある日あの落書きを見つけた。


 4歳の子供が夢中になると大人では止められないものがある。

 ふすまに壁に至るところへ描かれた、今思えばマシンメトリィの設計図。

 彼女はこのために生まれてきたに違いなかった。

 その中でも最も重要だろうものが一枚の紙切れ、広告の裏一面に描かれている。

「これを見たらもう養子に出すしか」

 深いため息を吐きながら私は一人ごちていた。


 一面にはこう描かれていた。

 大脳と思しき鮮明なイラストにここ重要と差された矢印。

 その差された先だけがくり抜かれていてわからないことと、割引のシールが誤魔化すみたいに張り巡らされていること。


「忘れて行ったワケじゃないみたいね」


 テレビに映る完成したマシンメトリィとマシンメトリィの体の自分を比べて娘の成長と夢の成就を祝う私だった。


 あえて娘は皆が見やすいわかりやすいバラエティ番組でイリュージョンマジックを披露した。

_今じゃ古い手かもしれないけど配信よりは信憑性があるわね。

 配信だと編集に目がいってマシンメトリィに魂のインストールが伝わらない。

_私は心臓の具合が良くなかった。


 マシンメトリィのおかげで心臓はちゃんと機能してる。

 それに逐一スキャンされていくから常に身体の状態がわかるし、今食べなきゃいけないものもわかる。

 アレルギーも元素分解されて大きな病気はなくなった。

_おかげで今はだいぶ楽だよ天音?

 私はTVに映る天音を泣きながら眺めていた。

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