第19話拝啓垣内将也様
垣内天音4歳にしてマシンメトリィの設計図を描く。
「何してるんだ天音」
真っ白な画用紙に鉛筆と消しゴムを使って若干の歪みを含みながら何かの内部構造らしきものを描く幼女。
?!
「母さん!」
周りの騒ぎにも気づかないままはみ出した線は部屋のフローリングをなぞり出す。
「あらこんなとこに書いちゃダメよ」
相変わらず夢中になると聞こえないわね。
およそ八畳一間のフローリングをあっという間に埋め尽くした設計図。
天音はしばしば閃く度に部屋を一部屋ずつ塗り潰していった。
「この絵を見るかぎり恐らく何かの内部構造なんだろう。
でもこの子が何を訴えているのかボクにはわからないよ菜々さん」
うん。私もだよ。
あとさん付け。
「あ、いやでも」
約束したでしょ?結婚したら呼び捨て。
その方が私も嬉しいし。
はにかむ菜々の顔に自然と綻んだ自分の顔を意識したボクは少し顔を背け、、
「ダメ」
両頬を固定されたボクは
「うん。可愛い」
娘の前でキスされた。
相変わらずうまい菜々のキスを受け入れながら、ふと思う。
「娘の才能はボクには荷が重いのでは」と。
やがて菜々の両腕が首にかかり頭を押さえ込み、、
「ッ」
じー
「菜々、天音が見てるよ」
「しゃーない。こんくらいで許してやるか」
天音もしたい?
ダーメ。お父さんは私のだから。
「そのことなんだけど相談があるんだ」
ほ?どのこと?
まずボクは今からスゴくヒドイことを言うことを許して欲しい。
「許さん」
だろうね。ごめん。
許してとは言わないよ。
ただこれは天音の将来を考えてのことなんだ。
たぶん話せばわかるはず。
「話してみ?」
きっと毎日こうやって天音が描いているのはただの閃きなんかじゃないと思うんだよ。
「だろうね」
どこかの専門学校とかそういうとこで学ばないといけないかもしれない。
でもそれはどこだかわからない。
資料を集めるにしても何のか検討もつかないし、、
「お父さんが言いたいことはわかった」
でもね?
もうちょっと待ってみない?
「せめてこの子がこの絵に意味を見出すまでは」
だがその日はすぐにやってきた。
「お母さん!私この人作りたい!」
まだ5歳の子供が描いただけのそれは内部構造以上のものですらなく、
「私はこれからこれを作るの!」
言い出したら聞かない子だった。
やむなく、将也は会社の同僚を辿り咲枝家の存在を知ることになる。
「だが気をつけてな。咲枝グループはわが社と比べものにならない大企業だ」
その言葉がどうしても引っかかり、、
「なぁやっぱいかない方がいいか?」
彼は首を横に振ると
「先方はもうお前を待っている」
腹くくれよ。
娘が泣くぞ?
そう言われれば将也は引けなくなるのだった。
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