第10話エライザ

 何が双翼のマシンメトリィだ。

 どいつもこいつも踊らされやがって。

 しかも片方は未完成じゃねぇか。

 あれじゃ片翼だよ!

「言いたいこと言えた?じゃぁお薬にしよっか」

 やめろ!アタシは狂っちゃいねぇって!

「みんなに感染っちゃいけないからさ」


カパッ


 天音博士は他のマシンメトリィからの通報を受けてエライザ化したマシンメトリィにワクチンプログラムを投与する仕事をしていた。

 カプセル状のものを口から入れて水で流し込む。

「ホントはワクチンプログラムをリンクで流せれば一番なんだけどまだそこまでできてないからもうちょっと我慢してね」

 お大事に。


エライザとはバグのようなものでこれになったマシンメトリィは動作不良を起こす。

ある者は人を傷つけ、ある者はハートギアを自ら解除して体を売った。

依然としてその件数は増え続けつい最近専門の医療機関を設立した矢先のことだった。


そこへ天音博士へ通報が入り、彼女は一人一人に対応していた。

これでは埒が明かない。

しかし、その過程でわかることもあった。


「わざわざ一人一人に出向かなくても」

「いえ、やりたいんです。彼女らが今どんなことで苦しんでいるかも含めて」


路地裏の排水溝などが乱立するところに自分から行く博士を止めようと声をかけてきた者は多く、その殆どが男性であることを博士は歯牙にもかけなかった。


博士を慕う異性は多い。

キャリアもそうだがその明るさ、物腰の柔らかさが彼女の魅力だった。

そして何より


「ストイックに人を助けようとできる素直さだよなぁ」


 普通キャリア組っつたらもっと冷たい印象があるもんだよ。

 その上あの美貌。

 二物どころじゃねぇぞありゃ。


「彼女を想うならアンタらもがんばりなさい」


そう言って女性職員から叩かれるのが男性職員の常だった。


「でもでも、天音博士はホントにスゴい人ですよ?高校在学中に博士号取得ですもん!

未だにいませんよそんな人!?」


若い女性職員も黄色い声をあげていた。


 憧れの的なのはいいけど、、


「わかりました。今すぐ向かいます」


 また通報が入ったらしい。


「もうやめとけよ。姉さん」


 思わず口から出た口調は辛辣で自分でもそんなつもりはなかった。


「タケル。これは私が撒いた種なの」

 引き止める最愛の弟の声にすら耳を貸さず、

「姉さん。私達だっているよ?ちゃんと姉さんのやりそうなこと予測できてるから」

 端から端まで全部読んだんだよ?

 袋綴じのヤツも。

 みよはそう言ってナイショノートを差し出した。


「よくこんなん在学中にできたねぇ。

勉強も単位もクリアして友達と遊びながらってどうやったの?」

 本当にそこは教えて欲しい。

 文武両道なんて言葉では追いつかないよ。

「隙間時間にちょっとずつね」

 そうだろうけどさ。

 んで、この袋綴じがエライザ化と不老不死について?

 勉強したけどわかんなかったから、解説してよ?


 現在姉さんは23歳だ。

 俺達も大体それくらいになる。

 同じ年頃の女子の考えることとは思えない内容がそこには記されていた。


 以下はナイショノート袋綴じの内容になる。


 私が死ぬ?

 そんなまさかね。

 親からは何も聞かされていないし病気、、はないんだろうけど。

 でも、いやそれであればこそこれは完成させなくちゃいけないんだ。

 制限時間はきっと少ない。

 まずは設計図と問題点、それに実用化に向けてどれくらいの予算がいるか。

 保険適応は可能か。

 二人にはどう伝えるか。

 不老不死なんてホントに可能になるのか。

 とにかくここで諦めるワケにはいかない。


 重い遺書のような内容から入った袋綴じはこのあと色々迷いを含みながら俺達への語りが記されていた。

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