第9話逆流性プログラム

 すぐに医者に看てもらった。

 医療用マシンメトリィの配属される医療機関ではよくある症状だそうで、原因は逆流性プログラムによる人格の混濁だそうだ。


「逆流性プログラムによる人格の混濁?」


 つまり全人類分のマシンメトリィにリンクさせたことが原因で情報が逆流して、元ある人格を破壊、混濁させているらしい。


「でも彼女は人間ですよね?」


 医療用マシンメトリィは首を振って、


「彼女はみよさんのマシンメトリィです」


 ウソだ!

 そんなことがあってたまるか!


「ではなぜ彼女は人が変わったのでしょうか?みよさんの元素を組めば今時簡単にマシンメトリィはできてしまいます」


 まるで死を宣告されたみたいに絶望的な気分になった。

 なぁわかるだろ?

 自分の彼女がロボットとすり替わってたんだぜ?


 なぁ誰かわかるって言ってくれよ。


「わかるよ。私には」


 マシンメトリィが喋ったのかと思ったが、違う。

 声には色があった。


「ごめんね。ちゃんと伝えてなくて」


 後ろから入ってきたみよが暗い顔で立っていた。


「今時分身に代わりをしてもらうことなんて当たり前だからって自分に言い訳してたよ」 


 愛はお金じゃ買えないのにね?

 その声は涙に染まり、とても愛おしく思えた。

 だが、俺はもう簡単に信じたりはしない。


「先生。マシンメトリィと簡単に見分ける方法はなんですか?」


 俺はロボットに向かって努めて誠実に聞いてみた。


「虹彩です。人間なら光を反射した時輝きますが、マシンメトリィはその反射が遅れてしまいますコンマ何秒の話で人間に認識はできないですが、天音博士の弟であるタケルさんなら見分ける方法は知っているんじゃないでしょうか?」


 随分長い台詞をロボットとは思えないほど滑らかに話す医療用マシンメトリィ。


 それで俺はピンときた。


「愛してるよ。みよ」


 それを聞いた俺はあとから来たみよではなく連れてきたマシンメトリィにキスをした。


「あわわわわわ」

 マシンメトリィであるはずのみよの顔が見る間に赤くなっていく。

「流石にこんなんじゃ騙されないか」

 と後ろのみよが笑う。

「でも何だろこの失恋感」


 当たり前だろ。お前もみよなんだからさ。


「ありがとう」


 どうやらマシンメトリィと同期させていたらしい。


 ところでなんだってこんなややこしいことをしたんだ?

「それが、、同期させたらどれくらい自分と同じように動くか知りたくて」

「なんで?」

 最近忙しかったじゃん?

 だから、手数欲しいなと思ってさ。

 それに博士には頼めないし。

「姉さんとは違う道を選んだから?」

「え?うん」

 あんまり考えすぎんなよ。

 人間にも処理落ちくらいあるんだからな?


 くしゃくしゃと頭を撫でながらみよを胸に抱き寄せる。

「じゃあたまにリセットしてくれる?」

 そんなんで良ければ喜んで。

 上目遣いの本物のみよと後ろにいるみよを二人とも抱き寄せて

「これからもよろしくな?」

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