第6話死は克服できる病気
大臣の協力もあって各医療機関の手配は早かった。
しかし、姉さんの病気はそれを超える速度で進行していく。
すぐに姉さんは病床に伏すことになった。
「タケル、私が死んだら」
姉さんはもうわかっていた。
自分がいつ死ぬのか。
_だから急いでいた。
在学中に博士号を取得したのも、
「死ぬなんて理不尽なことなんで皆納得できるの?」
自分の子供を残そうとしたのも
「タケルはお姉ちゃんが他の男と結婚してもいいの?」
「怖いよ。タケル、私どうなっちゃうのかな?」
自分が死んだらなんて誰にとっても絶望的だ。
そんなこと一瞬だって考えたくない。
姉さんは
「私ね?死は克服できると思うの」
夢を語るみたいに晴れやかな顔で姉さんは常々言っていた。
「姉さん。任せて俺がこれ以上苦しむ人を増やさないよ」
姉さんの手をとって俺は約束してしまった。
「タケルで大丈夫かな?」
ここはありがとだろ?と苦く笑う俺の声は震えていた。
思えばそれが姉さんの最後の言葉だった。
それから姉さんの元素マシンメトリィと協力して姉さんがやり残した研究を続けた。
まずメーカーに預けておいた初期型の設計図を元に遺伝子組み換えのプログラムを組み、各家庭に一台はあると推定される初期型マシンメトリィに無料配信。
任意に機能を使えるようにした。
これは姉さんが言っていた理不尽な死に対抗する第一歩だった。
「病気を持って生まれた子」にもう一度人生を。
このプログラムは生まれてきた子供の病気に作用するように作られていた。
姉さんは自分の体を通して機械は簡単に交換ができるのに、人間は換え一つでも命がけなんておかしい。
常々そう言っていた。
換えというのはもっと簡単にできなければならないと。
そうこうしている内に葬儀の日程が決まり、その間のことはマシンメトリィに任せて俺は葬儀と親戚と学校とマシンメトリィとで手いっぱいになっていった。
俺は姉さんの部屋から見つけたナイショノートを読みながら、どこか抜けているところはないか探していた。
すると後ろからマシンメトリィが近づいてきて
「調子はどうだい少年?」
それまで無表情だった声に色が宿っていた。
クニュ
間違いないこんなことするのは姉さんしかいない。
そう思った瞬間持っていた本から栞が落ちた。
半年後のタケルへ。
もう一度再会するために。
そう書かれた栞が蛇腹に伸びていき、
死ぬことは完全なグレーじゃないか!
ならなぜ選べないのか?
よし私が実現しよう。
そこにはそう書かれていて、
「私ね?人間はもう生むだけじゃなくて造れるところまできてると思うの」
本人がインストールされているであろうマシンメトリィはさらに宣う。
「神様にできて人間にできないことはない」
いや、それはどうかと思うぞ?
ムニュムニュ
「これでも?」
か、感触だけじゃ、、
「タケルはお姉ちゃんとしたいの?」
違う!違う!
そうじゃなくて肉体が再現できたからって神様に勝ったことにはならないだろ!
「でも魂はインストールできてるでしょ?」
あぁまぁな。
「宇宙でも作ればいい?」
な!?
そんなことできねぇって!
勢いよく振り向く俺の唇をまたも奪う姉。
ムグッ
「落ち着いて」
学校で多少は習ったでしょ?
小さな宇宙の作り方くらいなら。
「でも姉さんは」
そうだね。私ならやりかねない。
自分でもわかってるんじゃん!
「あぁあ、彼女の前でラブラブすんなよ」
してね「ヤいてんの?」
「ロボットなんかにヤくか!」
実は少し前からみよは一緒に暮らしていた。
俺のことを心配してしばらく一緒に暮らすと言ってくれた時は、
「どういう風の吹き回し?」
と無神経なことを言ってしまい、
正面からみよに抱きしめられてキスをされた。
ついでに体も押しつけられて、
数秒間、、
「好きだから、、じゃダメかな?」
「ありがとう。助かるよ」
こんな時に俺はそれしか出てこなくて、、
二人とマシンメトリィで半年を乗り切ってきた。
「今更姉さんかどうかも怪しい人に邪魔されたくないんだよ」
私達だってこの半年でアンタに追いついてきてるんだ。
たしかにスタートは遅かったし、アンタのノートを参考にもした。
驚愕したよ!そんなに歳も変わらないヤツがあんな設計図書いてるなんて。
私にも勿論タケルにも理解できるギリギリのラインだった。
でもタケルと二人なら乗り越えられた。
「私達には私達のマシンメトリィがある」
まだ形にならないまでも設計図はできた。
アンタみたいに人類滅亡の危機をどうかすることはできないかもしれない。
でもできることはある。
「ホントにできたんだね」
姉さんは睨みつけてくるみよの視線を躱さず優しい目を向けていた。
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