第2話タケルの想い

 タケルは私がお姉ちゃんだと思う?

「当たり前だろ?」

 少なくともずっと一緒に生活して成長もしてきたんだ。


 ケンカも失敗も一緒にしてきたし、何だったら家出だって沢山した。

 沢山一緒に怒られた。

 全部覚えてる。


 スリーサイズも知ってるよ。

 だから代わりに服を選んでくることもできた。

 そんなことがマシンメトリィにできるのか?


「タケル。恥ずかしいからやめて大きな声でスリーサイズ叫ぶの」

_あ。


 あ、でもこれは、、

「わかったありがとう。お姉ちゃんが今から説明するね」


 姉さんが言うには自分の元素を組んだマシンメトリィに魂を定着させることができるか実験をしているのだという。

_自分の体を使って。

「そんなことできるわけない!」

 姉さん今すぐやめろよ!

「信じてくれるんだね」

 思わず掴みかかったマシンメトリィの目からは大粒の涙が滲んでいた。

「でもお姉ちゃんは医療の世界でこの技術が役に立つと確信してるの」

 だから止めないで。

 そんな、、いやでも、だからって。


 姉ちゃんはどうなるんだよ!

 俺が姉ちゃんを指差すと、

「人に指を差すな。そっちはマシンメトリィと同期してるから普通に生活できるよ」

 母さんには何て、、

「まだ言ってないな。いいや私が行ってくる」


 姉さんの入ったマシンメトリィが部屋を出てしばらく、、下の階から母さんの声が聞こえてきた。

「そう。天音あまねが決めたことなら仕方ないわね、、、」

 そのあとの言葉は遠く霞んで聞こえなかった。

 扉に耳をつけて澄ませてみても結果は変わらず俺は聞くのを諦めた。


 小一時間ほどして部屋に戻ってきたマシンメトリィは

「さて、明日からは忙しくなるぞ!」

 と気持ちを入れ替えて、

「そっちの姉ちゃん起こして」

 言われるままに俺は姉さんを揺り起こす。


「姉さん起きろよ」

「ふぁ」

「懐かしいなぁ。小さい時はずっとこうして起こして貰ってたもんね?」

 やっぱり姉さんなんだな。


 変な話思い出だけならデータで何とでもなる。

 それくらいは俺でもわかった。


 だけど、マシンメトリィがリリースされてから魂のインストールまで行った者は確認できる範囲にはまだいない。


 しかし、天才というのはわりとどこにでもいる。

 たまたまマシンメトリィを姉さんが開発したというだけだ。


 他にもそんなことをできる人間がいるのは間違いないだろう。

 姉さんでも色々苦労はしていた。


 マシンメトリィを完成させるために遺伝情報が必要なのは早い段階でわかっていた。

 俺がそれを知ったのは小学生の頃、間違って姉さんの部屋入った時のことだ。


 床一面に散らばったレポートその一枚一枚はガキにはわからん設計図やら数式が書かれた紙切れだったが、一枚だけひらがなで「ちがほしい」と赤で書かれているのを見つけたからだ。


「タケル。お姉ちゃんと付き合ってみない?」

 思わずあの時はひっぱたいてしまった。

 純粋に怖かった。


 だってあのレポート見たあとだったし、年端もいかぬ弟を服脱いで誘惑する姉がどこにいる?


_それにあの時はまだ、、

 それはともかく、

「俺の何で補うつもりだよ!?」

 何となく察して欲しい。


 そんなことできるワケがなかった。

「タケルはお姉ちゃんが他の男と一緒になってもいいの!?」


 ひどく傷ついた顔で姉さんは悲鳴でもあげるようなトーンでのたもうた。


「普通はそうだよ!」

 タケルは世間の犬なんだね。とさめざめと泣く姉さん。


 この当時は勿論マシンメトリィは発表されておらず、迫ってきたのは生身の姉さんだ。


 だから大丈夫ってワケはない。

 倫理的にもそうだけど、俺は姉さんと、、、



 いや、何でもない。

 何でもない!

 俺にはみよがいるし。

_いるし。

 したことないけど。


 予定もない。

 付き合ってはいるが進展はなかった。


 俺のことはいいんだよ。

_大体この間未遂があったワケだし。

 あれはあっちが勝手に、、

 やめろ。それより姉さんの話だ。


 姉さんは遺伝子情報を採取するために色々調べていた。

「ここもダメか。もぅしょーがない!

自分でするか!」


 そう言って姉さんは台所から包丁を持ってきた。


「ちょッ何する気だよ!?」

 後ろから抱きかかえて包丁を落とすと、

「そっちこそ?何するの?」


ムニョン


 こ、これは、、姉さんがでかいからいけないんだ!


「好きででかいワケじゃないよ?」

 上目遣いはやめて!

「きゅんです?」

 この人はお姉ちゃんこの人はお姉ちゃんこの人はお姉ちゃん。


「ばぁ」

 両手で一度隠した顔を開きその拍子に萌え袖気味の袖口も目の前でヒラヒラする。


 完全に遊ばれていた。

 お姉ちゃんだよね?

 自信までなくなってきた。


カラン


 遅れて落ちた包丁の音に気を取られた瞬間、、


ちゅ


「協力ありがとう」

 唇を奪われた。

 姉じゃないかもしれない人に。


トクン


 ダメダメダメダメダメ!

 ときめき禁止!

「それより何しようってのさ」


 俺は姉さんの拘束を解かないまま、

 別にやめられなくなったワケではない。

 ワケではないからな!

_誰に言い訳してんだよ。

「人に血とか分けてもらうワケにいかないでしょ?だから、、」

 落ちた包丁をじっと見る姉。


 そうかなるほど!ってなると思ったか!?

 自分の体なら傷つけてもいいとかマッド越えてサイコパスの域だからな!


 早まるなよ姉さん!

 な?わかるだろ?


 何だよその不服そうな顔は。

「だって、カラダとかエッチなんだもんタケル」

 胸のあたりを抱きしめて半歩引く姉さん。

 うぃ?いつ俺がそんなこと言いましたか?

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