双翼のマシンメトリィ

アキヅキ

保険適応

第1話ちょこっとSF

 最近巷でバズっているマシンメトリィ。

 等身大の自立稼働型アンドロイドなのだが、コイツはその見分けがつかないことで有名になってしまった。


 噂によると最初の頃とは製作者が違うとかで、初期型はまるっきりロボットだったのに対して現在は、


ふにゅん


「まるっきり人間ってか」

 俺は自分の腕とマシンメトリィの腕を摘んで比べてみる。

「なぁこれみよっちの腕と比べてどうなワケ?」


「人の腕をロボットの腕と比べんな!」

 クラスメイトのみよに聞いたらエラい剣幕で怒られた。


 クラスメイトである。

 幼馴染ではない。

 実際問題幼馴染の方が馴染まないような気がするのだ。個人的には。

_こと異性に関しては。

 だってほら考えてもみな?

 小さい頃から一緒にいると何一つ珍しいものがないワケで、下手したら風呂だって一緒に入ったりすることもあるワケ。


 あぁ太ったなぁとか小さいなぁとかそんな風に。

 歳の近い姉とかいる人ならわかると思うけど。


 そうそう。

 姉といえばこのマシンメトリィの金型を作ったのは俺の姉さんだ。


 あろうことか姉さんは高校在学中に博士号を取得した。

 でもその研究だけは未成年を理由に一旦メーカーに譲渡することになった。


 メーカーはその研究を元に初期ロットを制作し先にリリースした。

 これは姉さんが指示した内容なので問題はない。

 その後姉さんが卒業すると契約通りマシンメトリィの開発主任に抜擢されて今は自宅から通っている。

 そのため初期ロットだけデザインが違うのだ。

 これが噂の真相。


 俺はその姉さんを心から尊敬していた。

 尊敬である。それ以外は何もない。

 たしかにモデル体形の年頃の女性が目の前で脱いだりするようなシーンは勿論ある。


 だが、これ見よがしにリアクションを取り部屋から出ていくこともなければ、大声で非難することもない。

 だから聞かれたことはある。

_裸で。

「ねぇタケルにとって、姉ちゃんはどういう人?」

 まさかその手の質問を本人にされる予定はなかった。

 ここでバカ正直に「尊敬する人」だとはどうしても言えない。

 なので俺は

「美人だとは思うよ?」

 はぐらかしたつもりが、

「抱きたいくらい?」

 と色目を遣ってきた。

「姉弟でそれはない」

 ときっぱり断った。

_服着ろよ!


 しかし、思わぬところから追撃がくる。

「誠に申し上げにくいのですが姉弟ではありませんよ?」

 ちょッマジか!


 それは奇しくも姉さんが作ったマスター版のマシンメトリィだった。

 コイツには遺伝子 走査スキャンができるらしく、見ただけで人や生き物の遺伝子情報がわかるというのだ。

 だが、こちらにも人間の意地がある。

「どうだか?それだって完璧にわかるもんじゃないんだろ?」

 俺は姉ちゃんを愛してる。

 だが、それは姉弟愛だ。

 それ以上でもそれ以下でもない!


ニマァ


 ヤベ。姉さんがこういう笑い方する時は大抵抜け道見つけた時だ。

「言ったネ?じゃあそれ以外になろう」

 ほら見ろやっぱりぃ。

 以外って何!?何なの姉さん!

「よいではないかよいではないか」

 あぁスイッチ入った姉さんは引くわぁ。


 頼むからいつものキリッとした姉さんでいてくれ。

「ですからまず姉弟ではございません」

 そんなこと言わずに助けてマシンメトリィ!

「マスターを止めることは規程によりできません」

 そうだ。コイツ機械だった!

 人間に見える機械だった!

 ひとまず姉さんを引き離してそれから改めて話を聞く。

「姉さんが姉弟であろうとなかろうと、俺にとっては姉さんは姉さんなの。わかる?」

 しゅんとした姉さんは可哀想なくらい可愛かったが関係ない。

「で、姉弟ではないとはどういうことか説明頼めるかな?マシンメトリィ」

 スネた犬みたいにぐったりする姉さんを宥めて、後ろに立っている姉のマシンメトリィに声をかけた。

 マシンメトリィは姉に似てセミロングのピンクがかった綺麗な髪を揺らして、小首を傾げる。

「まさか。ご存知ありませんか?」

 家庭の事情を全て知って生きている人間なんてそうそういないもんだ。とマシンメトリィを諭すと、

「そうですか。だからこんなに」

 何が見えているのか口をつぐむマシンメトリィは

「では見たままを申し上げますがよろしいでしょうか?」

 あぁ。と姉の気が落ち着いてくるのを撫でつける手から感じ、


「あなたにお姉様は存在しません」


 !


「何だって!?」

 既に一回聞いていてもそのショックは大きかった。

 この時姉さん(仮)はすぅすぅと寝息を立てていた。


 言われてみれば俺の知る限り姉さんだけだった。

 こんなに立派な経歴を持っているのは。

 父はともかく母は特別エリートコースは歩んでいない。

 父は行方不明で母からもその人柄を聞いたことはない。

 俺も現在中の下くらいの高校に通っていた。

 才能溢れる人間が生まれる要素は特になかった。


 では何者だコイツは。

 当たり前のように子供の時から俺の隣にいて、巷を賑わすこの女の子は!?


「気づいちゃったか」

 その時姉さんの息吹を帯びた声がマシンメトリィの口から聞こえた。

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