第6話 お届け物デース!

4両の戦車が街路を疾駆する。

市街に突入した皇国軍戦車部隊、その一部であった。

ある交差路に差しかかった瞬間、周辺の建物から煙が噴き出た。

携帯型対戦車風出砲──風魔法で対戦車砲弾を撃ち出す新型兵器──の伏撃である。

携帯型対戦車風出砲は射手が爆炎を防ぐ手段がないため、携行式の大口径砲は不可能、そう言われていた常識を打ち破った画期的な兵器である。

けして威力は十分ではないが装甲が薄い弱点部位…上面など…に命中すればどんな戦車でも撃破できる。

とは言え風で撃ち出す関係上、弾道が安定せず命中率はけしてよくない(後年砲弾に安定翼が追加されこの問題はある程度解決する)。

この時も10発以上が同時に発射されたが命中したのは一両だけだった。

戦車隊は、発射点に応射をかけながらすぐに後退を始めた。

彼らの任務は敵の位置を確認することだけだったからだ。

被弾した戦車も完全に撃破されたわけではなかったようだ。よろよろと後退する。

メイたち、猟兵たちは戦車からの報告を受けながら敵火点に突入し、制圧していく。

敵の司令部がある建物はもうすぐそこだった。



どちらが撃ったのかわからない砲弾が至近距離で着弾する。

メイはふらつく頭を振りながら立ち上がる。

「突入!突入!突入!」

小隊長…今は中隊長だ…が叫ぶ。

猟兵たちは鬨の声を上げながら敵司令部がある建物へ突入を開始した。


あらゆる窓、入り口から銃弾が降り注ぐ。

何人かが体のあちこちを吹き飛ばされる。

即座に戦車が砲撃行う。

メイはその中を駆け、なんとか建物入り口に辿り着き、柱の陰に隠れた。

銃弾が降り注ぎ爆発が連続する。

「伍長。どうするんです。」

隣にいるルーラを伺う。

「そうだな……。トルタ。お前先頭な」

「え!?」

メイの抗議を聞き流しながらルーラは柱から銃を突き出し撃つ。

「あそこの陰まで走るぞ。カルラ。フウロ。援護射撃」

そう言うとルーラとシエラは駆けだす。

「待ってくださいよ!?」

メイも慌てて走り出した。




リッツォーは、頭を悩ませていた。

とりあえず、ここでは勝つ。いや勝った。そう言っていい。

問題はここからさらに戦闘団を機動させて、敵主力を撃破できるかであった。

もし、敵主力の二個師団がこちらの動きを無視して攻撃を続行した場合、旅団主力は撃破されればプーケは帝国の手に落ちる。いやあっさり退いて再編して仕切り直されても同じことになる。

つまりなんとしても敵主力を撃破しなければならない。

しかし、今回の作戦で戦車部隊の損耗は非常に大きい。

撃破されたもの以上に、故障で脱落したものも多い。

竜兵も疲れ切っている。

どうすればいい。

思考が纏らない。不安が大きくなる。もしかして自分はこの戦線の敗北を決定づけたのかも。

その時、一騎の竜が降り立つのが窓から見えた。竜兵伝令。盗聴(通信用魔道波の傍受はままあり得ることだった)を阻止したい重要な情報を伝える際に使用される。

リッツォーは首を傾げた。

最悪の事態が起きたのなら傍受されてでも魔道通信が行われる手筈だったから、理由が思いつかなかった。




建物はほとんど制圧されていたが、司令部付近の敵は頑強に抵抗していた。

「トルタ。例のやつをお見舞いしてやれ」

「いいんですか?あれもうないですよ?」

いいからやれ、というルーラの言葉にうなずき、捕獲した携帯型対戦車風出砲を構える。

発射。

敵兵が逃げ出すのが見える。

僅かな時間をおいて爆発。

悲鳴が複数上がり、視界が煙で覆われた。

「行け!突撃!」

ルーラの言葉に猟兵たちが一斉に飛び出す。

銃撃。

何人かが倒れるが、それを無視するように猟兵は躍進した。

メイも撃ち終わった風出砲を放り出し、続く。

倒れている者、降伏の意思を示しかけた者も無関係に猟兵は射殺していく。

長い戦闘は猟兵たちは野獣と大差ない精神状態となっていた。

部屋のドアがこじ開けられた。

「突入!」

「ま、待て!」

帝国司令部の人間は手を上げようとした。

それはこの世界でも降伏を意味する。

だが、猟兵たちには銃を取り出す仕草に見えた。

いや、そう望んで誤解した。

銃声が響き、悲鳴が連鎖した。




皇歴1826年4月14日


皇国軍第108戦闘団の敵司令部襲撃成功とほぼ同時に来援した、皇国軍第2戦車師団及び空中竜巣母艦によって攻撃を続行しようとした帝国軍第61師団が撃破される。

もう一つの第62師団も追撃を受け、ほぼ壊走と言っていい有様で撤退した。

結果、帝国軍はほぼ作戦戦力を失い、戦線を大きく下げることなった。

皇国軍はこれを機に、シリギア王国に戦力を集中。

短期間でシリギア王国を降伏させることになる。




「で、伍長。これから私たちどうなるんです?」

適当な木箱に腰掛けながらメイはルーラに問うた。

既に戦闘が終結してから10日以上が経過している。

その間休養と訓練を繰り返していた。

「戦闘団はかなりの損害を受けたから、本国に帰って再編だろう。休暇も貰えるぞ」

「そのあとは?」

「戦争だ。戦車に乗って」

「戦車は!もう!嫌です!」

「徴兵期間終わるまでは無理だ。諦めろ」

そんなー!?と叫ぶメイの上空をのんびり竜が飛んでいた。

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異世界転生して戦車に乗る話 松平真 @mappei

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