第5話 ビル掃除!

メイたちは草むらの中にいた。

既に戦車隊から離れている。

敵が立てこもっている街に向け、匍匐しながらゆっくりと近づく。

敵司令部がいる街への総攻撃。

彼女はその第一波なのだった。




帝国第6軍団の予備を用いた反撃は、長駆進撃してきた皇国軍独立602竜兵大隊の制空権奪取を機に失敗に終わった。

彼らは新兵器である大口径砲弾を改造した爆炎投下弾まで持ち込んでいたため、第6軍団が受けた損害は彼らの想像以上のモノだった。

結果、碌な手が打てないまま、市街地に立て籠り、救援が来るのを待つしかなくなってしまった。





メイの後方から砲声が響く。

なにかが弧を描いて街へと吸い込まれていく。

爆発が連鎖した。

漸く外縁部の建物へと辿り着く。

ルーラがメイたちの様子を確認したのち、小隊長に手で合図をする。

小隊長は全ての班の合図を確認すると後方に合図する。

数秒後、先ほどより小さく鋭い砲声が連鎖した。

敵兵がいそうな建物、部屋に次々と戦車が砲弾を撃ち込んでいく。

メイは耳を抑え蹲る。

「よし。行くぞ!皇国猟兵突入!」

ルーラは戦車が開けた穴にメイを放り投げながら他の班員に命令を下した。

「いたい…」

鼻を抑えているメイを無視しながらルーラたちは部屋を制圧していく。

どうやら敵兵はいなかったようだ。銃声がしないまま、ルーラたちが戻ってくる。

「トルタ。次行くぞ」

「なんで投げたんですか!?」

「おし。元気そうだな。再確認だ。シエラ。トルタ。それと私が前衛。カルラとフウロは後衛だ」

「ほらメイ。いくよ」

黒髪を後ろで縛っているシエラ上等兵がメイの肩を叩いた。


次の建物への入り口を見る。周囲の気配を探る。ルーラの合図。

3人は小走りで建物に突入する。メイはあちこちに短魔道連射銃を向ける。

出入口は他に2つ。左と右前方。

一瞬何かが動いた。左のほうだ。

人?敵?それとも味方?

メイは一瞬撃つのを躊躇した。

次の瞬間、その方向から銃声と閃光が瞬く。

「敵!伏せろ!撃ち返せ!」

ルーラの叫びが聞こえる前に身を前に投げ出す。

敵弾は背後の壁に命中したらしい。連続する爆発の衝撃を背に感じながら敵のいたあたりに銃を向ける。

発砲。

爆発が連鎖する。

悲鳴や動きがないかを探っていると右前方から閃光。

幸運なことにこれも外れた。手前で爆発。シエラが撃ち返す。

メイも何度か引き金を引く。


数秒か数十秒かの銃撃戦が終わるとすぐに静かになった。

部屋を確保したのを確認すると、後衛の二人を呼び寄せる。


メイたち前衛は左の出口に。後衛の二人は右前方に向かった。

廊下になっているようだった。

ルーラが鏡を一瞬突き出し、危険を確認する。

敵はいない様だった。

ルーラに続いてメイ、シエラも廊下に出る。

死体が2つ転がっていた。弾に仕込まれた爆裂魔法で酷い有様だ。一人は腰のあたりで体が2つに分かれているし、もう一人は顔の右半分がなかった。

私が殺したんだ。メイはそう思いながら…だが、足を止めずに先に進む。

メイはもう戦争に慣れつつあった。



猟兵たちは街外縁を制圧。突入口を確保。

その報告を受けたリッツォー大佐は命令を下す。


「全戦車前へ。戦車前進。街を制圧し、敵司令部を殲滅せよ」





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