第4話 竜と遊ぼう!
108戦闘団は敵前線を突破した。
そしてそのまま敵司令部を蹂躙するための突進を開始した。
まず襲われたのが防衛戦を構成していた帝国軍第94旅団だった。
彼らの手元には投入すべき機動戦力がなかった。
なぜならば、既に投入した後だったからだ。
彼らは僅か一個中隊の戦車とそれにへばりついていた戦車随伴歩兵の伏撃で壊滅している。
そして彼らは何も有効な手が打てないまま蹂躙された。
ルケート帝国が構成していたプーケ防衛線は崩壊した。
攻勢作戦の総指揮を担当していたルケート帝国軍第6軍団司令部は、その事実に動揺した。
主力は既に攻勢のための行動を開始している。呼びもどすにしても時間がかかる。そしてそんなことをしたら攻勢計画はめちゃくちゃになる。
阻止するには手元に残していた予備隊を投入するしかない。敵前線を突破した(そう。彼らが突破する側のはずだったのだ)後の戦果拡張に使用するための貴重な予備隊を!
この時点で108戦闘団は戦略目標を既に達成していたのかもしれない。
メイは戦車の振動に耐えながら視線を左右に走らせていた。
あの後更に3度交戦している。
疲労のピークを過ぎた結果、感情が抜け落ちたようになっていた。
10両いた戦車も既に8両まで減少している。
近くを走っていた戦車にしがみついていた兵(メイと同じような年の少女だった)が上を指さした。つられて顔を空に向ける。
そこには何かが複数ゆっくりと飛行していた。
鳶かな?この世界にもいたっけ。
目を凝らす。
竜だ。三匹。
そう理解したときには、竜たちは降下を開始していた。
帝国軍竜兵小隊長ダニガン中尉は、乗竜の機嫌を取りながら飛行させていた。
部下と共に前線を食い破った敵部隊の捜索と阻止の命令を受けていたのだ。
(クソッ。俺もこいつも非番だったのによ)
内心そう吐き捨てながら地面と竜に交互に目を向ける。眠っていたところを叩き起こされたため竜の機嫌がよくない。
その時、竜の首が一点を向いて止まっていることに気付く。
その先に目を凝らす。
小さいものが地面を動いている。
ダニガンは部下に合図を送り降下を開始した。
メイは叫んだ。
「竜だ!突っ込んでくる!」
戦車はその叫びに応えるように加速した。振り落とされそうになりながらも、メイの目は竜を追う。
ダメだ。逃げきれない。
絶望がメイの胸を支配する。
隣のルーラが竜に銃を向けたのを無感動に眺めた。
ダニガンは、狙いを付けた戦車に乗竜を突進させた。
いくつかの戦車から火花があがる。
乗っている歩兵が銃を撃っているのだ。
バカめ。ダニガンは鼻で嗤った。
そんなもので竜の
戦車に乗っている連中の顔の見分けがつく待ってから手綱を引く。
竜が
爆発。
衝撃で戦車に体をぶつけながら、後方で起きたそれをメイ呆然と眺めた。
まだ、生きている。助かった……?
ダニガン中尉はメイの乗っていた戦車の後ろの戦車を狙っていたのだ。
二匹目、三匹目も後続していた車両に向け突っ込んでいく。
爆発が連続した。
ダニガンは上昇をかけながら僚騎の戦果を確認した。
ざまぁみろだ。皇国のクソったれ共。
ダニガンは口の端を歪めた。
だが、今回はこれまでだ。
竜は日に何度も
部下に合図を送ると、そのまま帰投するための進路を取った。
突如起きた空襲は、唐突に終わった。
竜たちはあっさりと飛び去っていった。
メイは惨状を見渡した。
数両の戦車が未だ煙を上げているのが見える。
そして、その近くには黒焦げになった人だったものたち。
どこか冷静にメイは思う。
そりゃこうなるよな。エアカバーがないんだから。
遠くで小隊長とルーラたちが話しているのが見える。
進撃の再開まではもう少しかかりそうだった。
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