上を向いて歩こう

メールを開くのが怖かった。



『今日は相談乗ってくれてありがと!春に話してよかった。

陽和と後で話し合ってみるよ。(^^)』

トウヤからのメールにどうしようもない罪悪感を掻き立てられる。

お礼を言われる筋合いはない。

これからトウヤを裏切ろうとしてるのに。

『それならよかった。冬夜はもう少し押してもいいんじゃない?遠慮しすぎ!

陽和もきっと分かってくれると思』

返信を打つ画面の上に、ぽつぽつと水の玉が落ちていく。

ごしごしと何度制服の袖で拭っても落ちてくる涙の痛みに耐えられなくなって、顔を上げた。

抜けるような青空が、刺すような美しさで見下ろしてくる。

ごめんね・・・ごめんね。

あたし嘘つきで。

既に裏切っているトウヤ。



明日ヒヨリは、トウヤに別れ話を切り出すだろう。

ヒヨリが最近ずっと望んでいたこと。

トウヤが最近気付き始めたこと。

そしてあたしに相談してきたこと。

でも、今のあたしはヒヨリの味方だ。

いくら相手がトウヤだからって。

最初にされたお願いは覆せない。



ごめん、これも嘘だな。

最初にお願いしたのはヒヨリだ。

でも、どっちの意見を採用するかは、どういう方向にアドバイスするかは、あたしも決められるんだ。

明日ヒヨリは、トウヤに別れ話を切り出すだろう。

ヒヨリが最近ずっと望んでいたこと。

トウヤは絶対望んでいないこと。

あたしに相談してきたこと。

あたしは、今は、ヒヨリの味方で。

だって、あたしも、望んでいるんだもん。

早くヒヨリに、トウヤへ別れ話を切り出してほしいって。

何もかもを黙ったままで、ヒヨリがトウヤと別れたいなら、別れてほしいのだ。

どれだけトウヤが傷付くだろうことを分かっていても、あたしがトウヤの隣に立ちたいんだ。

ヒヨリがそのポジションを離れたいというのなら、応援してあげるのだ。

それでも同じくらい、そうならない可能性もあるから、トウヤの背中も押している。

ヒヨリを繋ぎ止めるためにがんばれ、トウヤ。

それでもあたしは、トウヤの隣に居られる可能性がより高い方向へ、どちらかが望んで、どちらかが望まない未来への背中を、両方、押して。

ヒヨリがやっぱりトウヤと別れない、となっても、別れる、となっても、どちらにしてもあたしはそれを見つめていよう。

それが、中間地点に居るあたしの役割だと、思っておこう。


途中で切れたままだった返信をして、コンクリートの冷たい地面に蹲った。

もう少ししたら上を向いて歩こう。

あたしは見届けなくちゃいけないから。

今は少しだけ、泣かせて。

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