追憶のひかり

「変わってないですねぇ、ここは」


静寂に包まれた丘の上にある冷たいボディに頭から水を注ぎながら、あたしは一人で話しだした。

あなたが耳を傾けてくれていることを信じて。


「そちらはどう?居心地は良い?

わたしがそちらに行くまで、もう少し待っていてくださいね。

まだわたし、やりたいことが沢山あるんですから」


滑らかなボディに水が通りきったころ、あたしは手を止めて話を続けた。

こうしていると思い出すんだ。

あなたと出逢った日のことを。

一人で弾丸のように話し続けるあたしを、微笑んで見守ってくれてたよね。

取り留めもない言葉の数々を、辛抱強く聞いてくれた。

あの時のあたしは、あなたに見つめられていることに照れて、おしゃべり屋が更に止まらなくなっちゃったの。

あなたは気付いていたのかしら?

あの時からあたしは、

あなたと並んで歩きたいと思ったのよ。


「ここは静かだし、気持ち良い風が吹いていますね。ほんと・・・寂しいけれども羨ましいわ。

わたしはあなたの分まで、世の中のごみごみしたものを沢山見てきましたからね。

でもいつか、あなたと一緒にこの風を感じられる日が来ることを知っているから、わたしはまだこの世界で生きていけるのですよ。

見守っていてくださいね、わたしがそちらに行く日まで」


あなたはもう何も語らない。

語る口はもうとうに亡く、ただつややかな石の塊にあなたを感じることでしか、あたしはあなたを感じることができない。

それでも、「あなたがここにいる」と思ったら、記憶の中のあなたはあたしの話に耳を傾けてくれているの。

だんだんに目を閉じて、少しめんどくさそうなのを隠しながら、それでも聞き役に徹してくれた日々を、いつもいつも思い出す。

あたしが声をかけた先にあなたがいると思うと、寂しいけれど寂しくない。

また、ここに来れば、あなたを強く思い出せる。

あなたを忘れないように、あたしは健やかにまたここから生きていこうと、思える。


そして、おやすみなさい。

また今年も、あたしの話を聞いてくれてありがとう。

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