018 好きな人と嫌いな人



 ここでおれのヒミツを解き明かすクーイズ。モノを動かすために必要なモノ、なーんだ。

 答えは〜……エネルギー! 動物はメシ食ってないと生きてけないよネ。車はガソリン入れてないと動かないよネ。スマホは充電してなきゃ使えないよネ。

 それとおんなじコトなんだよ。おれだって動くから、エネルギーを補給しないと動けなくなる。メシもまあ食べるけど……もっと大事なエネルギーがある。

 今度はもっと難しいよ。おれみたいなバケモノが命を燃やし続けるために必要なモノ、なーんだ。


 ……、……前の話の続きネ。目覚めたおれの目の前にいたのは、満面の笑みの冒涜者ブラスフェミアだった。「成功してよかった」って。その時のおれは……まあ当たり前なんだけど、事態が飲み込めてなかった。

 刺されて、死んで、生き返ったんだよ。そんなこといっぺんに起こされてもマジで意味不明じゃん。だから、おまえ何したんだよって、そいつに訊いた。

 そしたら一つ一つ丁寧に教えてくれたヨ、ずーっと考えてた蘇生術を誰かに試してみたくなったってコト。その相手は、信頼できる人がいいと思ったコト。だからおれを選んだコト。上手くいって嬉しいって思ってるコト。……説明されても、わかんなかったケドね。

 それで……あいつの実験は次の段階に入った。蘇生術の中に、主従契約の魔法も組み込んだんだって……。あいつが創造主になって、おれは被造物になる。だからおれはあいつに逆らえなくなる。そーいうシステムを、勝手に組み込みやがった。で……それが上手く作動してるかどうかのテストで、アイツが一番初めにおれに命じたのは……前の話でも喋ったけど……。

 「この場所を隅々までお掃除してきて」って。「僕と兄さん、で快適に暮らせるように」って……。……だから、それに従った。前の話じゃゴニョゴニョしちゃって伝わらなかったかもしんないけど……。

 ……、……殺したよ。全員。教会にいた人、全員。

 神父様もシスターも、妹も、弟も、……みんな。おれがこの手で……、……、……。なんか脱線しちゃった、話、戻すネ。


 そこで気づいたんだよネ、ひとり足りないって。一番歳の近かった女の子。年下なんだけど、その子だけは妹って感じじゃなかった。幼馴染みたいな感じで長いこと一緒にいて、それで……。

 ……結婚するつもりだったんだ。その子と、そう……そーいう仲になってたの。ずっと一緒にいたから。六月になったら式を挙げようって。育った教会のチャペルで、みんなに見守られながら一緒になろうって。そう約束してた子がさあ……いなくなってたんだよ、見つけられなかった。

 はじめはそれがとんでもない幸運だと思ってた。フツーに考えたらさ、逃げたんだって思っちゃうじゃん。逃げてくれたんだって、生き延びてくれたんだって思い込んでた。……でも違った。ぜんぜん良くないことが、起こってた。


 話を戻すネ。おれみたいなバケモノが命を燃やし続けるために必要なモノ。命に焼べるべきエネルギー。

 それは……他人の命。それを取り込まないと生きてけないから、おれは間違いなくバケモノなんだ。

 でもね、全てのモノには質がある。エネルギーも一緒。栄養価の高い食べ物を摂ってた方が体はよくなるし、使い古されたものより新しくてサラサラな油のほうがよく燃える。それと同じなんだよ、人の命にも質がある。

 ……あんたはさ、好きな人と嫌いな人が目の前で同時にピンチになってて、絶対にどちらか一人しか助けられないって言われたらどっち助ける? ……トーゼンだよね。好きな人を選ぶ。……命の質ってのは、そーいう風に決められる。

 つまるところ……好ましい感情を抱いてる人の命を燃料にするほど、おれの命はよく燃えるんだ。具体的な数字で言うと、家族とか、恋人とか……そーいう唯一無二の存在と呼べる人の命を取り込むと、百年くらいは。反対に、嫌いな人の命を取り込んでも、数年しか保たない。


 そう。おれは、好きだと思う人を喰い殺せば殺すほど長生きするバケモノなんだよ。


 ……だから、そう……冒涜者あいつが言ったんだ。「兄さんは、信頼できる人だから」「なるべく長生きして、ずっと僕のことを守っていて欲しい」って。言ったから……食べたんだ。……覚えてない。覚えてたら生きてけないって、勝手にそう判断したんだろうね。おれの身体が、頭が、心が、……。

 とにかくおれは、そうしてほど生きるバケモノになったんだ。食べたから……そう……あの子を……結婚しようって、約束してた子……


 ……? ああ、そうだよ。。間違えてないよ。喰ったから。

 結婚の約束してた女の子と、とを、いっぺんに。

 ……これは、冒涜者あいつにとっても誤算だったっぽいネ、さすがのあいつもあの子が妊娠してるとまでは予測してなかったみたいだから……。


 今回のハナシはここで終わりね。知れてよかった? おれの身体のヒミツ。そう。そーだよ、おれと同じようにあいつに甦らされた、あの子も同じ。

 だから誰かと仲良くするのやめとけって言ったのにさあ……ふふ。ふ、ふふ。……疲れちゃった、また今度ネ。ばいばい。


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