010 興味本位でしてはいけない





【赤い子 ダルマ】


登録タグ:グロ 危険度5 殺人 胸糞 非常識


赤い髪をした少女がチェーンソーで四肢を切断され殺害される様子を収めた動画がヒットする。

非常に残虐な内容の為興味本位で閲覧してはいけない。


+動画の内容(閲覧注意)


なお、動画に出てくる少女は娼婦であり、客に怪我を負わせたため制裁としてこの仕打ちを受けているとのこと。


分類:グロ 非常識

危険度:5


【コメント】

・記事作成乙。危険度5でいいの?(名無しさん)

・↑見てみたけど画質もカメラワークも悪いし時々何してるかわからない、5で十分かと(名無しさん)

・女の子若いよね。まだ20にもなってなさそうなのに、かわいそうに(名無しさん)

・度胸試しで見せられたけど意外と平気で見られた。悲鳴がうるさかった(名無しさん)

・確かにグロいけど、似たような他の動画に比べたらあんまり見どころもないよね。つまらないっていうか(名無しさん)

・↑最低。見どころないとかつまらないとか。何だと思ってるの。削除申請してきます(Jane)

・↑興味本位でこんなページ見てるお前も同類 正義厨ぶるなよ(名無しさん)





『夕月はさ』

『記憶喪失なんだっけ?』


『うん』

『そうだけど』

『そういえば、ミレーユさん』

『こないだの通話なんだったの?出れなくてごめん』


『いいよ、大したことじゃなかったし』

『夕月』

『つらいこととか、ない?』


 ……。なんだかミレーユさんの調子、変だなって思う。今まで向こうから一方的につらい病んだもう無理通話しよって言われっぱなしだったのに、今日は何故かこちらが心配されている。しかも心当たりないし。

 通話に出れなかった次の日のトークルームは、こんな感じの変な雰囲気に包まれて沈黙した。なんて返せばいいのかよくわかんないんだよな……。強いて言えばこの会話をどう転がせばいいかわかんないという意味で辛いっちゃあ辛いんだけど。

 既読をつけちゃったまましばらく返信に悩んでいると、画面が切り替わった。デフォルトにしっ放しの着信音。しびれを切らしたらしいミレーユさんから、通話がかかってきた。まあこのまま黙り続けるよりは適当に喋ってたほうがマシかなって思って、緑のボタンをタップする。


「もしもし」

『夕月?』

「うん、ミレーユさん。……どうしたの? いきなりあたし心配されちゃったけど、心当たり、ないんだけど」

『……本当に、心当たり、ない?』

「ないよぉ。むしろミレーユさんのほうが辛いことあったんじゃないの? いきなり通話かけてきたし」

『……、……そうかもね』


 スピーカーから聞こえてくる声はしおらしいというか、なんか……少し疲れてそうな感じで萎んでいた。辛気臭いなーって呆れた対応するのも何故だか気が引けて、聞き入って、口を噤んでしまう。

 またしても降りてくる沈黙、ややあってミレーユさんが呼吸する音が聞こえた。向こうも何を言おうか悩んでいるらしい。面倒臭いからもう切っちゃおうとも思えない空気感の中、あたしは恐る恐るこちらから切り出してみることにした。


「ミレーユさん、あの、なんかあった?」

『……』

「えと、こんなこと言うのちょっとアレだけど……今日のミレーユさん、なんか変だよ。ヤバいことあったりした?」

『……、……あったのは、キミのほうだろ』

「えっ?」


 ぷつん。

 そこで通話は途切れてしまった。あんまりにも突然だったから呆然としてしばらくの間何もできなかったけど、ミレーユさんも何もしてこなかった。かけ直してくることもなく、チャットで何か言ってくることもなく。

 どうしたの、って訊こうと思った。でも何故かできなかった、心に何かがこびり付いてそれがあたしの一挙一動を阻害する。もうやめたほうがいいって、意味不明な思考回路がそんな警告を弾き出して、ますます意味がわからなくなる。怒らせちゃったのかな? 変だよって言ったのがよくなかったのかな? そういう後悔もよぎればよぎるほど訳わかんなくなってきて、どうしてだかすごく泣きたい気持ちになる。

 今まさにめちゃくちゃ辛いよ。あたしもミレーユさんみたいにいきなり通話かけて一方的にまくしたてるみたいに泣いちゃいたい気分だよ。なのにあたしだけそうできないの、ずるくない? ──最悪な気分になっちゃった。スリープモードに落とすことすら億劫になったスマホを乱暴に投げ捨てて、ベッドに体を投げ出して。全部嫌になっちゃったから、その日はもう何もしなかった。





【赤い子 ダルマ】


【警告】ブラクラ、ウイルスサイトの為、検索する際は注意


登録タグ:PC被害 ウイルス ブラクラ 危険度7


以前は赤い髪をした少女がチェーンソーで四肢を切断され殺害される様子を収めた動画がヒットしていた……が、現在は何者かの手により動画及び画像が軒並み削除されている。

その跡地に非常に強力なウイルスが複数仕掛けられているため、興味本位での検索は厳禁。


+以前このページに記載されていた内容


分類:PC被害

危険度:7


【コメント欄は現在閉鎖されています】





『あははは! すごいね、これってあなたの仕業なんでしょ? でも意外だな、あなたってこういうことするタイプの人なんだ。義憤に駆られる的な? もともとそういう性根の人だったのか、それとも夕月のことを特別気に入ってたからこうしたのかは知らないけど……』

「……そりゃあね、流石に、知り合いがこんな目に遭ってると知っちゃったら」

『ふふ! 面白ぉい、あなたも結構があるもんなんだね、何でも屋ミレーユさん?』

「──冒涜者アンタとは違ってね」


 文字列の嵐を踊らせる無数のモニターの設置された机上に向かって吐き捨てるように呟く、この部屋は薄暗いからきっとネットカフェなどではない。

 乱雑な指先でキーボードを操作して、厳かにエンターキーを押し込む何でも屋ミレーユの顔は、深雪を固めて彫り込んだ芸術品のようにつめたく凍りつき、ブルーライトに照らされるたび白く輝いていた。


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