第5話 吊り橋効果

 抱きついている勇者さんを美人秘書さんと一緒に引きはがし、別室でお互いの自己紹介と召喚の目的を話し、勇者さんの話を聞くと、概ね、このような話だった。もちろん、召喚に集まった人たちには解散してもらっていた。


 なぜか勇者さんは日本語が話せ、ボロボロだった鎧や服装も元に戻っていたらしい。異世界補正、改めて、すげー!


 ところで、あまりの美しさに感動して見惚れてしまっていたが、そんなスキルがあるとは今後このスキルは使用禁止にしよう。

 対象があまりにも美しければ、例え裸婦像だろうが、いやらしさを感じないらしいが、俺もまだ変態の域には達していないということでよかったよ。

 抱きつかれる前に身体強化した拳でぶっ飛ばされるところだった。



「ところで、時空のはざまってどんな感じのところなんですか。細胞分裂している感覚が分からないとか言うような感じ?」

「細胞分裂しているのを意識して分かる人間がいるか!」

俺は彼女に問いかけ、美人秘書さんに頭を叩かれています。

まあ、確かにくだらない質問なんだけど……。

「呼吸をしているのか、していないのかわからない状態?」

疑問形で答えられた?


 美人秘書さんと目が合い、思い切り噴き出してしまった。で、まあ、こちらの世界のことをこの異世界の美少女に説明するのだが、この美少女勇者なぜか俺を見て赤くなってもじもじしている。

 そして、決心したように俺を真っすぐ見てお礼を言われた。

「私を時空のはざまから救っていただき、本当にありがとうございました。

 遠く離れた時空のはざまを魔力でこじ開け、時空をつなげて召喚するなんて私の世界では、例え、宮廷魔術師を数千人規模で集めても無理でしょう。もっとも宮廷魔術師クラスとなれば、世界中あつめても数十人ほどしかいませんが……。

勇者の私が云うのも何ですが、伝説級の勇者さまクラスといっても過言ではないです。(こんなに強くて、暖かくて、優しくて、理想です。理想が私の目の前にいます。なんとしてもこの男性と添い遂げて見せます。しかも、お名前がアキトとおっしゃり、開き戸、扉を開く者、私の運命の人です)」



 俺の魔力、こちらでは神力と言うんだけど、それが伝説の勇者級って俺ってそんなにすごかったんだ?!

 それに美少女勇者さんがテーブルの下で、なぜかガッツポースをしています。連想ゲームでもしているのでしょうか? なんか勇者さんから好意も感じます。

 これが吊り橋効果っていうやつか?


「大体、話は分かったわ。異世界の勇者ならこちらの邪神どもでも大丈夫でしょう。期待しているからね。今日はもう遅いから教団の宿泊施設に泊まって、明日から根元神復活のために行動しましょう。」


 美人秘書さんの言葉で、勇者召喚でわすれていた設定を思い出した。

「勇者に邪神と戦ってもらうのですか。」


「当然でしょ。『名前で呼んでください』」


「二人同時に喋らないでください。」


「名前で呼んでください。」


「わかりました。ジェンヌさんに邪神と戦って『呼び捨てでお願いします』」


 もう、話が進まないから呼び捨てで進める。ラノベに良くある展開だが意識するのは時間の無駄。

「ジェンヌが邪神と戦うということですか?」

 なんか、ジェンヌが感動している。無駄じゃなかった。


「当然でしょ!呼び出したのはあんたなんだから。それにその子、あんたに懐いているじゃない。」


「アキトが一緒に戦うなら私は大丈夫です。戦うのは私の宿命ですから!(どさくさに紛れて、呼び捨てしちゃった。一緒にいられれば、思いも伝わるよね)」


「じゃあ決まり。詳しい話は明日にでもするから、今日は遅いからもう寝よ、寝よ」


 美人秘書さんが捨て鉢気味にそう云うと、控えていた教団員に宿泊施設に案内された。ホテルのシングルみたいな部屋に案内された俺は、霊力を使い果たした疲れからか、すぐにベッドに潜り込み、今日一日のことを色々考えていたはずなんだけど、気が付いたら朝になっていた。

 

 教団員が起こしに来て、食堂に案内された。

 食堂では、美人秘書さんとジェンヌが先に座って待っていた。ちなみに服装は、美人秘書さんは秘書スーツで、ジェンヌは3本のラインが入った白のジャージだった。この教団の修行用の恰好らしい。そういえば、さっき庭を見たとき、同じ服装の人が掃除してたな。


「昨日はよく眠れた?」

美人秘書さんが聞いてきた。

「いつの間にか寝てた。」

「色々あったからね。さっきも聞いたけど勇者も同じだったみたい。」


「ところで今日の予定はどうする。これからのことを色々決めなきゃいけないし、わからないことも沢山あるし」

美人秘書さんに目を向ける。


「それじゃあ、まず封印の秘密を話しましょうか……」

 そう言って美人秘書さんが口を開いた。

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