第4話 勇者(ジェンヌの独白)

 私は、ガムール王国の勇者です。


 私が15歳の時、世界中で魔王復活の女神の啓示があり、国中が戦いに向けての準備で大わらわでした。そして私は、成人の祝福を受けるため教会に立ち寄り祈りを捧げている時に女神から神託を受け、勇者になった。


 たかが弱小貴族の3女にこの神託を無視したり、拒否したりすることはできない。両親は、やっとツキが巡ってきたとばかりに王様に接見し、支度金を賜っていた。

 もちろん支度金の大部分は、両親たちの借金の返済に消え、私自身の装備は王家の方で準備してもらった。さすがに他の国の手前、勇者にみすぼらしい恰好をさせる訳にはいかなかったのだろう。


 私自身自分の容姿が優れていることに気が付いていたが、元々身分制度の厳しい国柄で、まして借金付きの女など他の男性からは無視されるか、妾として声かけがあるだけで、恋愛など高望みだと諦めていた。


 勇者になったことで、手のひら返しで、今まで下げすんでいた王侯貴族から婚約の話も舞い込んだが、今迄の仕打ちを考えると心が冷えていき、悔しくてとても受ける気にはならなかった。

 そして、私が魔王討伐のため、熱狂的な王都の人たちの声援を受けて王都を出立するときでさえ、立場が変わっていきなり期待されてもと冷静に考えている自分と向き合うだけでした。


 それでも、女神の加護を受けて、戦闘力は人力の遥か上を行き、人族最強の称号を得ていました。


 そして、魔王討伐の旅を続けて、魔物を殲滅し、魔族を屠り、私と同じように女神の神託を受けた仲間と出会い、王都出立から1年後、ついに魔王と対峙し、それぞれの牙を交えたのでした。


 魔王との戦闘は熾烈を極め、私たちのパーティは傷つき、魔王の強さに心を折られながらも、最後の賭けとして未来の勇者に託すことをパーティ全員で決意し、残った魔力を集結して封印魔法を放とうとした瞬間、魔王に察知され、私たちをしのぐ速さで魔力を練り上げ、ほぼ同時に封印魔法を放たれ、魔法が衝突した瞬間、黒い閃光を放ち、ブラックホールが出現しました。


 私は遠のく意識の中で、ブラックホールの中に吸い込まれていったのです。

せめて初めて心を許しあったアリア、サリーナ、フェイル、ロージェの無事を祈りながら・・・


 そして、気が付いた時、真っ暗な空間を上も下もわからず、生きているのか死んでいるのかもわからず漂っていました。

どのくらい漂っているのか時間も感覚もなく、只思考だけは止まらなかった。

 もう一度人生をやり直したい。いとしい人に出会いたい。愛されたい。

 苦痛を感じることなく幸せを掴みたい。

 何度繰り返してもあふれ出す思考。


 そんなとき、真っ暗な空間に一条の光が差し込み、やがて幾筋にもなり、時空のはざまがこじ開けられた。


 淡い光が体を包み、額に手が当てられた。いや、正確には魔力?か。こんな暖かくて、優しい魔力を感じるなんて初めてです。アリアの回復魔法でも、癒されるけど、こんなことを感じたことはない。


 やがて、足裏に地面に立っている懐かしい感覚が蘇る。ゆっくり目を開けると、額に感じていた魔力が霧散した。


 私は、魔法陣のようなものの中心に立っており、まわりを東国にある国の民族衣装の着物に似た服装をした妙齢の少女たちと、貴族の礼服を簡素にした紺色の服装をした青年や婦人に囲まれ、正面には、伝説となって今では銅像でしか見られない異世界から召喚された勇者と同じ服装をした男性が優しげなまなざしで私を見ていたのに、目が合った瞬間そらされてしまった。


 聞こえてくる声に耳を傾ければ、「ミロのビーナス? 黄金比? コカコーラ?」とか言っている。意味はわからないが、スキルを使って、感情を読み取ると、私の容姿を褒めてくれているようだった。少し恥ずかしい。


 どうやら、この方が私を救ってくれたらしい。

 思わずこの男性に抱きついてしまった。


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