第49話 私の新しい魔法
夜はお勉強の時間だ。幸い今日の授業でわからなかった箇所は無い。だから明日の予習をさらっと済ませて、それから本日のメイン、手順込み魔法に移る。
論文と聞いて難解な内容を覚悟していた。でもサクラエ教官から渡された論文は読みやすくかわりやすい。書いてある事そのものはかなり難しいのだけれども、私でも理解できるように書かれている。これが出来るという事はやはりサクラエ教官、頭がいいのだろう。そう思いつつメモを取りながら全文を読む。
なるほど、基本的には魔法の源呪文に条件接続詞をつけて繋いでいけばいいわけか。さらに完成した長い長い呪文も最初に名称宣言をつけておけば、次は宣言した短い名称を唱えれば起動可能と。
理解した。要はどうやらパソコンのプログラムと同じ理屈の模様。やはりこういった複雑な命令文の様式というのは似てしまうのだろうか。それともゲーム世界だから作る人の知識でそうなっているのだろうか。それとも……
私は最近、この世界はゲーム世界として作られた訳ではなく、この世界が先に存在していてそれを何らかの方法で見た者がゲームとして作ったのではないかと思っていたりもする。どっちであれ私がやる事、やるべき事は変わらないけれど。
そしてパソコンのプログラムと同じとわかれば論文の解析も呪文の新規作成もそれほど難しくない。これでも一応Python程度なら書けるのだ。前世、仕事場でそう言ったら何もかも全く違うCOBOLの業務プログラムを修正させられる羽目になったけれど。だから結果としてCOBOLもある程度はわかるようになってしまったし、更に言えば仕事関係でEXCELのVBAも使えるようになってしまった。でもそれはそれで別として……
試しに簡単な手順込み魔法から作ってみる。名称はお約束で『Hello world』だ。よし、空中に光文字で文字列が表示されたぞ。では次に……
気がついたら外がうっすら明るくなり始めていた。これはいけない。この国の朝は早いのだ。私は疲労回復魔法を自分にかけた後、短時間でぐっすり眠れるよう期間限定睡眠魔法をかけて眠ることにする。何をかくそう今しがた手順込み魔法で作った新作だ。名付けて
◇◇◇
「まず第21階層に行く前に、昨日図書館に籠もった成果ですわ」
私は昨日図書館で入手した魔法についてはこのパーティの全員に公開することにした。その方が戦力増強になるからだ。
エンリコ殿下にも公開することになるのはやむを得ない。殿下がある程度強くなければこのパーティが危機になる可能性もあるから。残念だが仕方ない。
「でも本当にいいのか。これはアンの功績だろう」
お前に教えたくはなかったんだと言いたいがそこは我慢だ。
「このパーティが強くなった方が私にとっても都合いいですから。それに私自身も独自の魔法を研究してきましたのよ。その辺は今日の討伐でお見せ致しますわ」
「その魔法も図書館で見つけてきたのでしょうか」
「こちらの魔法は昨日サクラエ教官に手順込み魔法の理論を教わって、組み立ててみたものですわ」
リリアには後でこっそり教えてやることにしよう。リリアの持つ魔力属性はこの中ではもっとも私に近い。その分使える可能性も大きい。
「サクラエ教官か。あの人は優秀だが研究内容が難しすぎるという評判だ。特に手順込み魔法は受け入れられる者が少ないと聞いたのだが」
「私が教わったのはあくまで初歩です。それでも実用には充分過ぎる程ですわ」
確かにプログラム言語って論理力が無いとマスターするのは難しいよな。そう思いつつ答える。
「それでは行きましょうか。第21階層以降は
フル武装してまずは第20階層へ。ボス部屋を迂回して第21階層に通じる階段へと辿り着く。
「結構心配だにゃ。この下からは罠も敵もわからないのだよにゃ」
ナージャの心配はもっともだ。でも問題無い。
「その為に新しい魔法を用意してきたのですわ。ですからご心配なく。それでは参りましょう」
原則として階段のある場所から一定範囲は罠もなければ魔物も出ない。一応魔法探知はかけているけれど。私を戦闘に階段を下りる。
「それでは新魔法をお見せ致しますわ。ブリーチャー!」
足が6本ついた蝉の羽化前の幼虫のようなクリーチャーが6体出現する。大きさは概ね小型犬位。こうやって見ると結構化物然とした感じだな。6頭もいると結構迫力がある。
「これが魔法なのでしょうか」
「ええ。これが動き回って、
ブリーチャー達が前へと進み始めた。尻から白い粉を出して歩いた場所に線を出していく。この白い粉は勿論仕様だ。うち3匹は次の角を曲がって見えなくなる。
直進した3匹のうち1匹が何かを見つけたようだ。前進して大きな右前脚で地面を叩く。ドドーンと爆発。ブリーチャー3匹が吹っ飛んだ。ブリーチャーは空中で丸まって脚や目部分をガードするとともに転がって衝撃を緩和している。
爆発が終わった後、丸まった姿から元に戻り、白線を辿って爆発場所へと戻り、また前進を開始した。
「反応が回りと違う場所を見つけて、そこを攻撃するように出来ています。素体そのものは頑丈ですからそう壊れません。丸まって衝撃を逃すようにも出来ています。そして通った場所にはああやって白い線を残していく仕組みですわ」
「つまりあの白い線がある場所は罠確認済みってことだね」
「そういう事ですわ。機構的な罠でもほぼ問題なく感知するように仕込んでありますから」
その辺のプログラム、もとい手順込み魔法はかなり苦労した。中でも苦労したのが6体でいかにして
「でもあのブリーチャー、魔物に倒されたりとかはしないのかな」
「おそらく大丈夫だと思いますわ。
何かの本でそういう理論を読んだことがある。そしてどうやらその理論は本当のようだ。今、私の魔力探知でわかったのだが、ブリーチャーがオークの近くを通ってもオークは反応しなかった。
ちょうどいいのでそのオークをデモ用に活用させて貰おう。
「ちょうどそこの角を曲がって少し歩いた場所にオークがいます。ここでもうひとつ、私の新しい魔法をお見せ致しましょう。
手のひらサイズの異形の鳥のようなものが形成され、羽ばたかずに飛んでいき、角を曲がって視界から消える。この形は某国の徘徊・自爆型ドローンであるハーピー2に似せたのだけれど、私自身以外はわからないよな。そう私が思ったところでバン! と扉を乱暴に閉めたような音が響いた。
少ししてバタッ、と大きなものが倒れた音がする。
「終わったようですわね」
「今のって」
「確認しましょう」
他に近くに魔物はいないのを確認して歩き始める。角を曲がってすぐオークが倒れている姿が見えた。頭部が見るも無惨に砕かれている。
「これがアンの新しい魔法なのか」
殿下の質問に私は頷く。
「ええ。指定された場所へ飛んで行き、人以外で一番大きい魔力に向かって攻撃を仕掛ける魔法です」
飛行体を形成する為の物質形成魔法からはじめて使用した呪文約100文。もちろん単純につなぎ合わせた訳ではない。サブルーチン化したり組み込み関数化したりして少しでも簡略化している。
この
「見えない場所にいる敵を倒す呪文か。便利すぎて恐ろしいな。これでどれくらいの敵を倒せるんだ」
「今の
ちなみに強力版の呪文は
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