第50話 反省だけなら猿でも出来る
今日の授業も復習する必要がない程度だったのが悪かった。時間があるのでつい手順込み魔法で新しい魔法を組み始めてしまったのだ。なお今度組始めたものは御前試合用の派手かつ相手の嫌がらせになる奴である。
今度は見た目にも過度に拘ったため、やはり気がつくと東の空が白みはじめていた。明日こそはしっかり寝よう。睡眠不足はお肌の天敵だ。そう決心してまた
さて、睡眠時間はともかく面白い手順込み魔法が完成した。これは一度御報告に行くべきだろう。そんな訳でお昼休みにサクラエ教官の研究室へと出向く。
「論文ありがとうございました。おかげで面白い魔法を作る事が出来そうですわ」
まずは先日借りた手順込み魔法の論文をお返しする。
「もう読んだのか。早いな。それで実際に魔法は試してみたか?」
「御前試合で使う魔法のプロトタイプを作ってみました。全部繋げるととても長くて読めませんので、10個のモジュール呪文と1つのメイン呪文という形にわけて作成してあります。それぞれの内容を図にしたものも作っておきました」
この辺は後にリリアにおぼえさせる為に作ったものだ。私自身が表に出るつもりは全くない。むしろこれ以上目立ちたくないというのが本音だ。だから御前試合もリリアとナタリアに出て貰う予定。その為の図でありモジュール構造である。
サクラエ教官は私が渡した図面と呪文を一瞥してむむむとうなり、更に呪文をじっくりと見た後、顔を上げる。
「アンフィーサ君、今日の午後の授業は何だ」
「カワド教官の算術です」
「わかった。ここで待っていてくれ」
そう言うとサクラエ教官は立ち上がり部屋を出て行ってしまった。何だ何だどういうつもりだサクラエ教官。咄嗟に答えてしまったが何か失敗したような気がする。
「カワド教官に了承を貰った。午後の授業時間、アンフィーサ君を借りるとな。どうせ今日の授業は二次方程式の基礎だ。それくらいアンフィーサ君ならすぐ出来るだろう。実はもう予習済でおぼえているんじゃないのか? どうだね」
「はあ、確かに」
それくらいはおっさんが理解出来るので問題無い。でも嫌な予感がする。何のつもりだ、サクラエ教官。
「さて、この呪文についてはさっと見せてもらった。なかなか面白い出来だ。火風水土の4つの基礎属性と光闇の応用属性を持たせた竜を出現させ、相手の魔法を全て無力化するというものだな。よく出来ている。確かに見栄えがするだろうし、これを唱えられたら相手はどうしようもない。相手がここの生徒程度ならアンフィーサ君の魔力が足りなくなることもないだろう」
流石サクラエ教官だ。最初の一瞥程度でそこまで読んでしまったか。
「ええ、その通りの魔法です。半分以上は視覚効果にさいているのであまり実用的ではありませんけれども」
「私が読んだところでは、この魔法呪文の記述は私が考えたものより更に新しい考え方で書かれているようだ。制御呪文もいくつか自作しているな。更にこの図、これを見ると呪文の流れと関係が一目でわかる。これは間違いなく画期的なものだ。その辺について少し話を聞きたい。
しまった! やらかしてしまった!
サクラエ教官の論文に記されていた手順込み魔法は、プログラム言語でたとえるなら初期のBASICやFORTRANのようなものだった。IF~THENやGOTOで他の部分に飛ばしたりするような状態で構造化がされていない。変数にあたるパラメーターもグローバル変数にあたるものしかないし、クラス継承なんてものも当然無い訳だ。
この状態では私というか中のおっさん的に使いにくい。だから構造化プログラミングが使用できるよう命令文や変数を新たに追加し定義しなおした。ぶっちゃけPythonのつもりで記述出来る程度に。クラスの継承とかも勿論入れて。
さらに命令、もとい呪文がどう流れるかをわかりやすく見せるためにフローチャートを作成した。何の気なく前世と同じ図式で描いてしまったが、こんなのこの世界にある筈が無い。正直今は反省している。反省だけなら猿でも出来るらしいけれど。
「でも教官は既に見てこの図の意味や新しく作った記述制御専用の呪文も既に理解されていらっしゃいますよね。その辺の説明は必要ないかと思いますけれども」
ささやかな抵抗を試みる。
「ここに記載された内容についてはほぼ理解した。これが長い呪文を作成・管理する上で効果的な方法だというのもわかる。同じ呪文の中でなら共通して使える部分は全て共通化する事で、全体を簡略かつ単純化する仕組みだろう。この方式にすれば他の呪文を作成する際に以前作った呪文の一部を援用する事も容易い。更に共通化した部分は今後の呪文にも使用できる。手順込み魔法の作成もかなり効率化できるだろう。
しかし何故こんな方法論を思いついたんだ。あの論文を渡してから今日まで2日しか経っていない。その辺について詳しく聞きたい。更にこの方法論についてももっと詳細を知りたい。これは大会の研究発表なんてレベルではない、真に魔法の将来を変えるかもしれないレベルの発見あるいは発明だ」
しまった。ささやかな抵抗は完全に粉砕された。やらかしてしまった。もう勘弁してくれ。謝るから。謝るという行為は間違いなく無意味だろうけれど。
「まず最初に。この考え方は長く把握しにくい呪文に対して設計の側から解決しようとする試みなのだろう。この理解でいいか」
「ええ……」
サクラエ教官の尋問、いや聴取が開始される……
◇◇◇
「どうしたの? 午後の授業には出ていなかったけれど」
「何か疲れているようなのにゃ」
ナージャの言う通り私はお疲れ気味だ。何せ午後2コマの授業時間分、みっちりサクラエ教官の尋問をうけていたのだから。
なおサクラエ教官は私から聴取した事をまとめ、今回の呪文よりもう少し簡単な呪文を例にして論文を書くそうである。なお共著者として私の名前が入れられてしまう予定だ。
勿論私は断った。しかし『ここで考案者であるアンフィーサ君の名前を入れなければ知識の剽窃になってしまう。研究者としてそのような真似は断じて出来ない』との事である。
これでまた余分に目立ってしまうのだろうか。ああ悲しい。ままならない人生という奴である。
ただやはり学校でそれなりに学んでいると実力がつく。今回の手順込み魔法関係はかなり役立ちそうだ。
やはり予定通り、ぎりぎりまで学校に居座ろう。その方が冒険者としての実力がつきそうだから。ただこれからは何事も控えめに行動することを心がけよう。これ以上目立つのはまずい。自他共に認める殿下の婚約者なんて立場だけは回避せねば。
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