第43話 ワレンティーナさんの忠告

「ちょっとお待ち下さい。確認して参ります」

 毎度お馴染みミセン迷宮ダンジョンの受付嬢がバックヤードへと駆け込んでいく。

 確かに今回は大量のオークがあるから受け入れ準備も大変だろう。そう思って見ていたらすぐに副ギルド長のワレンティーナさんを連れて戻ってきた。


「今回はこちらでお話を伺いましょう」

 ワレンティーナさんといつもの受付嬢さんとに連れられて2階へ。何事だろうと思うがとりあえず部屋で説明してくれるだろう。

 いつもの小会議室に通される。


「最初に今回の討伐の成果を確認させていただきます。まずは魔石からお願いします」

 言われた通り魔石を出す。今回は第20階層ボス戦もあってかかなり多い。


「ありがとうございます。まずはこれを回収致します」

 ワレンティーナさんは自在袋で回収した。


「次に素材になる魔物や素材、こちらに提出する意向がある宝物類をお願いします。この部屋は清拭魔法をかけられているので床に出しても大丈夫です。なお確認は下の部屋で別個に行いますので一気に出して構いません。こちらでも同速度で収納させて頂きます」


 なら遠慮しないで出そう。ただし素材になる魔物類は大きい。この部屋が埋まってしまいかねないからある程度順番で出した方がいいだろう。


「それでは殿下の自在袋から最初にお願いします。次は私で、次はリリアで」

 つまりは家の階級順だ。

 そんな訳でオークやデミオーク、エルダーオークや大蛇アナコンダ等を出していく。更にボス戦で回収した武器類も出す。


 順番に出して全部自在袋に回収した後。

「それでは私は下で計算して参ります」

 受付嬢さんが部屋を出て行った。後はワレンティーナさんと私達だけだ。


 ワレンティーナさんはふっと一息ついて、そして口を開く。

「まず今回提出した魔石及び魔物については、全てそちらのパーティの構成員で倒した事を確認しました。私はそういった魔法を使えますので。つまり全てを護衛では無く貴方方自身で倒された、その上でお話があります」


「何でしょうか」

 そのお話というのが想像つかないので素直に尋ねてみる。


「まず最初に常識から。ここミセン迷宮ダンジョンの第20階層、階層主の部屋については情報案内本ガイドブックにも書いてあった通り、通常はB級冒険者でもあえて入らず、転移陣で迂回します。その事はご存じですね」


「ええ」

 やばい、これはお説教かな。そう思いつつ私は頷く。


「ここは迷宮ダンジョンの受付で冒険者ギルドが管理する場所です。ですから王族や貴族の方でも特別扱いは致しません。ですからそれらの方々であるからという理由で危険な場所へ立ち入るなとかそういった注意は致しません。どんな方でもここへ入る際は一介の冒険者。


 そして難しいと書かれている場所でもそこを突破できる実力があれば、当然入るのを拒む事はありません。実際そちらのパーティは無傷であの部屋をクリアした。つまり相応の実力があったという事です。しかもこの迷宮ダンジョンについても第一階層から順番に階層を飛ばすことなくクリアしている。


 ですからこの件についてこの冒険者ギルドでとがめることもありません。それは最初に申し上げておきます」


 おっと、お小言では無いようだ。でもそれなら何の話なのだろう。


「これからお話する事はあくまで忠告です。冒険者ギルドの副ギルド長ではなくオリョール・オーチグン・イワミの旧友であるワレンティーナとしての」


「父上とはどのような関係だったのでしょうか」

 エンリコ殿下が尋ねる。なおオリョールとは国王陛下の名前だ。


「オリョールがアキ国へ留学した時、同じ学校でした。それ以来の付き合いです」


 なら最低でも国王陛下と同年代という事か。それならエルフとしてはかなり若い方だ。ただし同学年とは限らない。今の言い方だと学生同士だという保証すら無い。その辺は留意しておく必要がある。


「さて本題に戻りましょう。ここミセン迷宮ダンジョンの第20階層階層主の部屋は他の迷宮ダンジョンと比べてもかなり特殊な部屋となっています。理由はもうおわかりになりますね。敵となる相手が100以上の数からなる集団であるからです」


 私達は頷く。それはわかる。何せさっき戦ってきたばかりだ。


「更に言うと集団としても決して弱い方ではありません。弓兵もいるし魔法使いもいる。雑兵であるコボルトも3頭いれば騎士団の兵1人とほぼ互角に戦えます。コボルトソルジャーなら通常の兵士とほぼ互角でしょう。


 更に普人の通常の兵士より強力なコボルトナイトも10頭前後、そしてB級冒険者程度ならまず勝ち目は無いコボルトジェネラルまで出現します。しかも迷宮ダンジョン内では広い方とはいえ閉空間内で戦わなければならない。その辺を鑑みると戦力的には騎士団の魔道士混成中隊並かそれ以上の戦力と判断してもいいでしょう」


 確かにそうだろうなとは思う。そう思って、そしてワレンティーナさんが言おうとしている事に何となく気づいた。


「このパーティにはそれだけの戦力があるのです。これが公になると面倒な事になる可能性があります。たとえばB級冒険者では勝てないレベルの魔物が出た時。A級冒険者は少ないですから招聘するにも時間がかかります。騎士団の中隊も移動するにはそれなりの時間がかかるでしょう。


 このパーティにそれだけの戦力がある。それが知られた場合、間違いなくあてにされます。それだけならいいです。ある程度有名になった後、もしイワミの何処かでそういった魔獣の襲撃があって、貴族の業務等で討伐に向かえなかった場合、逆恨みされる虞すらあります。あとはもうわかりますね」


 充分わかった。だがここは私が返答するべきではない。


「つまりこれだけの実力を持っているという事は秘密にしたほうがいい。そういう事でしょうか」


 殿下が返答してくれた。よしよし。でもこういう処が出来が良すぎてある意味憎たらしいのだ。なまじ出来が悪かったら相手にしない等対処が出来るのだけれども。殿下、困った事に様々な面で出来がいい。うちのパーティにも貢献しているし。


「その通りです。無論冒険者ギルドが個々の実力や評価を外へ漏らす事はありません。ですがギルドのカウンターで成果報告等をする現場を見られる事もあるでしょう。本日はあの時、受付に他の者はいませんでした。ですがこれからは……」


 確かにその通りだな。私も頷く。とりあえず国外脱出するまでは少なくともパーティ外には実力を見せないようにしよう。


「以上です。なお今回の実績計算には少し時間がかかるでしょう。ですからここでお待ち下さい。もしお持ちでしたらお昼を食べるのもいいでしょう。それでは失礼します」

 ワレンティーナさんは立ち上がって一礼し、そして部屋を出る。

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