第42話 コボルトジェネラル討伐

 第20階層のボスはコボルトジェネラルと配下一同で総勢100頭以上。まともに戦ったら数で圧倒される。しかも魔道士メイジコボルトや弓使いアーチャーコボルトなどという遠距離攻撃可能な連中まで複数いたりする。


 コボルトジェネラルは魔法抵抗力が異常に高い。攻撃魔法のうち火属性は完全防御、他の属性も威力が半減されてしまう。騎士ナイトコボルトや魔道士メイジコボルトもジェネラルほどではないが魔法が効きにくい。


 あのワレンティーナ副ギルド長はどうやってここをクリアしたのだろう。そうは思うけれど知っても私達が真似できる訳ではない。だから私達なりの作戦が必要だ。


「最初は私が障壁魔法をかけて防御します。その障壁の中から攻撃魔法で数を減らして下さい。ナタリアは速度低下魔法スロウ防御力低下魔法ウィークをお願いします。

 敵をせめて10頭程度まで減らしてからが勝負です。リュネットは申し訳ありませんが魔法切れにならないよう監視して、随時魔力補充をお願いしますわ」


「勿論それは頑張るけれどね。でもコボルトでもジェネラルだと接近戦はやめた方がいいよね。どうやって倒すのかな?」


 たかがコボルトでもジェネラルや騎士ナイトはかなり強い。大剣をB級冒険者以上に使うと本には記載されていた。殿下やナージャでも近づかない方がいいだろう。

 そこで殿下がはっとした顔をする。


「そうか。その為にあの新しい魔法を試した訳か」


 殿下め、いち早く気づきやがった。


「ええ。その為に今朝一番で新魔法を試しました。あれも魔法を使いますが攻撃魔法ではないので魔法抵抗力に関係なくダメージを与えるはずです。ですがこの魔法の事はこのパーティ外には言わないで頂けると助かりますわ。あまり公にしたくはありませんので」


 場合によっては魔銃より強力な奴も使うつもりだ。ヒトマルは大きすぎてまだ組み立てていないが、ブッシュマスターは一応組んである。試射はまだだが問題はない筈だ。いかにコボルトジェネラルでもAPFSDS弾には抵抗できまい。25ミリ口径だし侵徹体が鉄だけれども。


「わかった。父上や母上にも言わないでおこう」

 よしよしエンリコ殿下、いい子だ。


「それでは中に入ります。数が減るまでは私の後ろから攻撃魔法をお願いします」

 宣言して一歩踏み出す。ボス部屋の扉が横開きに開いた。私達は中へと進む。


 リュネットが入ったところで背後の扉が閉まった。前方にかなり大きなものも含め、続々と魔力反応が出現していく。


極・障壁魔法リグ・ガード!」

 今の私が唱えられる最強レベルの障壁魔法を唱える。魔力がガンガンと減っていくが仕方ない。


速度低下魔法スロウ!」

過冷却オーバークール!」

神雷球破ドメラーズ!」

獣牙バ・ガ!」


 魔法が飛んでいく。殿下め何気に神雷球破ドメラーズなんて雷系範囲呪文を唱えていやがる。私ですら使えない雷系の高等攻撃魔法だ。


 でもいい。私にはこれがある。

『魔銃!』

 最初の目標は魔道士メイジ騎士ナイト。こいつらは魔法抵抗力があるので攻撃魔法にもある程度耐えるからだ。


『魔銃、強連射! 魔銃、装填チャージ、魔銃、強連射! 魔銃、装填チャージ、魔銃、強連射! 魔銃、装填チャージ

 うんうん、なかなかいい威力だ。ヤバいのが一気に減っていく。


 元々私以外の皆さんも攻撃魔法はかなり優秀だ。殿下はまあ血筋もあってかとんでもないけれど、他の皆さんも普通の生徒と比べて段違いに強力。ナージャですら獣人専用らしい獣牙バ・ガなんて攻撃魔法でガシガシと雑兵を削っていく。


 ただリュネットがかなり大変そうだ。皆さん高レベルの魔法を使うから魔力の消費も激しい。当然補充担当の彼女に負担が行く。それでもしっかり補充してくれるところは流石聖魔法のスペシャリスト。


 ならリュネットの負担も考えてさっさと終わりにしてやろう。

『魔銃、強斉射!』

 魔銃の最強攻撃をぶっ放す。あっさりコボルトジェネラルの胴体が吹っ飛んだ。

 なおヘッドショットにしなかったのは魔石を回収するためだ。オークは肉が重要だからヘッドショットで倒した。でもそうすると魔石が飛び散って探すのが難しくなる。だから素材にならないコボルト系は基本胴体狙いがいい。


「残りは雑兵だけですので障壁を解除します。ナージャと殿下とナタリア、お願いしますわ」

 これで大量魔力消費モード終わり。リュネットが背後で一息つくのがわかる。お疲れ様ってところだ。彼女がいないとこんな魔力を浪費する作戦使えないものな。


 攻撃魔法より剣の方が性に合うのか、ナージャが真っ先に飛び出していく。残っているのはただのコボルトとコボルトソルジャー10匹程度。しかもナタリアの補助呪文がガンガンに効いている。もう問題はない。


「リュネット、お疲れ様でした。大変だったでしょう」

「流石にこれがもっと続いたらポーション飲んだけれどね。でも大丈夫だよ」

 とは言え魔力は残り3割程度というところだ。私は人のステータスも見る事が出来るからわかる。


「もう少し余裕をもってポーションを使っても良かったですわ」

「うん、でもマジックポーションは高価だし美味しくないしね。もう少し魔力が減ったら流石に使ったとおもうけれど。でもアンの事だからそれまでには何とかするだろうとも想っていたしね」


 バレたか。でも一応言っておこう。


「でもこのパーティはリュネットの存在が生命線なんです。ですから充分気をつけて下さいね」

「うん、わかった」


 うーん、やっぱりリュネットも殿下にやるのは嫌だ。諸国漫遊のお供にしたい。リュネットの為にも私の自由の為にもリュネットが殿下とくっつくのが一番。それはわかっているのだけれども。


「終わったにゃ」

 敵の数がかった分、ボス部屋内は凄惨な状態。でももう見慣れた。それにしなければならない事もある。

 私は魔銃を自在袋に仕舞って宣言する。


「それでは魔石を回収しましょう。コボルト系は上級種でも素材にはなりません。だから基本燃やして魔石だけ回収です。ただナイトやジェネラルの武器類は一応回収した方がいいそうですわ。それなりの素材を使っているそうですから」


 この作業をやらないとお金にならないし討伐実績にもカウントされない。幸いコボルトは素材にならないので、魔法で燃やして仕舞えば魔石が残る。魔石は基本的に衝撃でも魔法でも砕けないから問題無い。

 魔力探知で魔石回収を確認したら、次の部屋から転移陣で入口へ戻る。

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