第40話 私の約束
翌朝陛下達は巡幸に旅立たれた。ただしその夜はまた別荘へと戻ってきた。まあ本来の巡幸の目的地であるマノハラ伯の領都ミマタはここから馬車でもそう遠くない。だからここへ戻ってきても予定には支障はなかっただろう。なお理由はお風呂の施設が大変気に入ったからだそうだ。
それだけでは無い。昼は天丼、夜はスパゲティミートソース入りのハーフコースメニュー、朝は天ぷらそば。いずれも大層お気に召した模様だ。どうやら何処の領地でも同じような高級料理を食べさせられ、いささか食傷気味だったせいもあるようだ。
だが問題はそこじゃない。風呂でも料理でも私は考案者としてマノハラ伯に名前を売られてしまった。ああもう駄目、消えたい。まだ実力不足だとわかっているから脱走出来ないけれど。
さて、露天風呂方面は残念ながら水着着用となってしまった。これは勿論殿下のせいである。
具体的にはまず女子陣が内湯で身体を洗った後、水着を着用して露天風呂へ移動。次に殿下が内湯で身体を洗った後、水着着用で露天風呂へ合流。そんな感じだ。私のハーレムに殿下が侵入したようで私としては激おこプンプン丸状態。無論顔にも口にも出さないし出せないけれど。
だがそれ以外は全てが順調になってしまった。
その実績で何と冒険者になって半年経たずして早くも全員D級昇格。ちなみにD級とは街の外の薬草採取やゴブリン退治等の依頼を受ける事が出来るレベルだ。つまりは本格的な冒険者への第一歩という訳である。
「以前パーティ人数と同数のコボルトマスターを倒した実績からみて、実際にはC級冒険者以上の力はあるでしょう。ですが今の年齢ではD級で半年以上の実績を積まないとこれ以上の昇級は無理なのです」
あの実年齢不詳なワレンティーナ副ギルド長がそう説明してくれた。逆にいればこのまま実績を積めば半年でC級冒険者になれるようだ。C級冒険者なら一通り依頼を受ける事が出来る。つまり冒険者として自立可能だ。
でも国外脱出は出来ればB級冒険者になってからにしたい。B級冒険者なら何処でもほぼ一流の冒険者として認められる。この上のA級冒険者はいわゆる英雄クラス、つまり国に数人程度しかいない特別な存在。だから実際はB級冒険者なら一流レベルの冒険者として見られる訳だ。女一人で漫遊の旅をするならやはりこのクラスが望ましい。
他にも進んだ事がある。私専用兵器、魔砲少女ユニットについてだ。
どうやら陛下が置いていった護衛は殿下だけでなく私も護衛対象らしい。だから1人で歩いている時でも何気に魔力の気配がついてきたりしている。逆に言えばその気配がついてきている限り私はおそらく安全だ。
それをいい事にリリアに町を案内して貰い、3箇所あった鍛冶場それぞれに魔砲ユニットを分割して注文したのだ。44口径120ミリ砲もスケールダウン版の30ミリ砲も、更に護身用の10ミリ銃も、曲射用81mm迫撃砲もどきもそれらの弾も。
なおタングステンも少量だが手に入った。少量といっても身体強化無しの私では持てない重さだけれども。これは切り札として44口径120ミリ砲用の弾にした。あとは自衛用と迫撃砲用は銅で、他と120ミリ砲の弾の一部は鉄で。
結果的に今までの
「お姉様が自在袋から出して細工をしている筒、あれは何なのでしょうか。私は見た事がないものなのです」
ある夜、リリアに尋ねられた。まあリリアといちゃいちゃする前に作業をしているのだから当然といえば当然である。
「私専用の魔法武器ですわ。まだ研究中で使えるかはわからないのですけれど」
リリアに見られたのは自衛用の10ミリ銃だ。ただ銃というには原始的過ぎまた重すぎる。要は内径
7本の銃身は正面から見ると概ね6角形になるように束ねられ、後ろ側の蓋を開けて弾を込める。蓋を閉めてグリップを左右の手で握り、銃口を前に向け、専用魔法を発動することで弾が出る仕組みだ。なお専用魔法は単射、2連射、全段同時発射の3種類作った。弾は予定通り誘導機能付き。つまり目標を狙って魔法を起動すれば絶対当たる。
なおこの護身用は材料になる金属さえあれば私でも弾を作成する事は可能だ。この大きさなら私程度の金属性魔法でも加工できる。形もそれほど複雑ではない。何せ火薬も何も入っていないただの金属の塊。サイズさえ間違えなければいい。
リリアが私に更に尋ねる。
「お姉様は私以上に攻撃魔法が得意ですよね。それなのに更にそのような魔法武器が必要なのですか?」
「攻撃魔法では倒しにくい敵も中にはいるでしょう。また動きが速くて攻撃魔法を避ける敵も今後出てくるかもしれません。この前のコボルトマスターとの戦いで思い知ったのですわ。私もまだまだ力が足りないと。ですのでこれを作ってみたのです。攻撃魔法が通じにくい敵や動きが速い敵でも倒せるように」
120ミリ砲をはじめとする大物はこのパーティの仲間にも当面は秘密。でもこの護身用だけはパーティメンバーだけの時はある程度使うつもりだ。道具は使わないと改良点が見いだせない。そして
強いていえば殿下に見られるのが少し問題かなとは思う。でもその辺は殿下にもしっかり口止めをしておこう。それくらいの信頼関係は既にあるのだ。
「お姉様は突然黙って遠くへ行ってしまうなんて事は無いですよね」
突然リリアがそんな事を口にした。
「どうしてそんな事を聞くのかしら」
ぎくっとしつつ、出来るだけいつもと変わらない調子で聞き返してみた。
「時々お姉様がこの国よりもっと遠くを見ているような気がするんです。私達は貴族とか領地とか国王陛下とか、この国の範囲でしかものを見る事はありません。広くても自領や自国の為に隣国の情勢などを気にするくらいまでです。
でもお姉様はもっと遠くを見ていて、もっと遠くに行きたがっている。私達には魔法や剣術の実践訓練と言っているこの
うわっ、鋭い。その通りだ。でも確かにその通りなんだけれども……うん……
「安心して下さいな。リリア」
とりあえず今日の護身用連装銃の整備は終わりにしよう。一式を自在袋に仕舞ってさっと清拭魔法を自分自身にかけた後、ベッドへ。そのまま背後からリリアの肩をぎゅっと抱きしめる。
「あえて正直に言います。確かに私はこの国の外を見てみたいと思う時があります。遠くへ行ってみたいと思う事もありますわ。その辺はリリアの感じた通りかもしれません。
ですから約束しましょう。絶対に遠くへ行かないという、守れないかもしれない約束ではありません。それでは愛するリリアに失礼ですから。そのかわり、何処かへ行く際は絶対にリリアにその事を言います。黙って消えるなんて事は絶対しません。神でも国王陛下でも家名でもなく、私自身の存在において誓います。
ごめんなさい、こんな事しか言えなくて」
本当はリリアも是非漫遊の旅に連れて行きたい。可愛すぎてずっと近くに置いておきたい。でも彼女はこの国の貴族の娘なのだ。しかも私と違って親にかなり可愛がって貰っている。だから私の都合で連れ回す訳にはいかない。
「私についてこいとは言わないのですね」
「リリアにはリリアの立場があるでしょう。リリアがするべき事もリリアにしか出来ない事もある筈です。だからこそ、その場限りで無責任な事は言いたくないし、言えないのです」
これは私の本心だ。本当はそんな事無いよと言った方がリリアも安心するだろうし私も逃げるという事を隠し通せる。でもリリアにだからこそ嘘は言いたくない。
リリアは少しだけ笑みを浮かべる。
「お姉様らしい言葉ですわ。だからこそ私もお姉様に惹かれるのです」
「リリアに惹かれているのは私もですわ」
そう言って私はリリアを後ろ向きにベッドへ引き倒し、自分の身を反転させリリアの身体の上へと覆い被さる。
「それをこれから良くわかって頂きますわ。今夜、これから……」
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