第3章 夏休みの予定外? な過ごし方 ~夏休みその2~
第32話 予定外の敵
最後尾のリュネットがボス部屋に入りきった後、背後の扉が閉まる。そこまでは予定通りだ。
だが次の瞬間、私は予定と状況が違う事に気づいた。敵が5頭いる。
疑問を持ちつつも全員に聞こえるよう指示する。
「5頭です。それでも作戦通りお願いしますわ」
それでも作戦そのものは変わらない。変えようがない。私達がすべきなのは魔法攻撃力に物を言わせた短期決戦だ。
動揺したのかナタリアの
『熱線魔法』
更に敵を引きつけるため、派手目の魔法を撃たせて貰う。
「水・熱複合魔法、大爆破!」
あえて大声で宣言し、敵を巻き込むように発動。派手な爆発。2頭が体勢を崩す。
敵全部が私の方へ視線をやった。よしよし、ヘイトを集めるのに成功。ここで障壁魔法を発動。これでようやくうちのパーティらしい形に持ちこんだ。更にリリアが攻撃魔法を飛ばしている。連射したうちいくつかが2頭に命中した。うち1頭はその場から動けなくなった模様。
それにしても思った以上に素早い。
それなのにナージャが戦っている1頭以外を熱線で狙っているが当たりにくい。5連射してやっと1回当たる程度。それでも脚をやらない限り動きが止まらない。
どうする。でも迷っている余裕はない。とにかく連射が効く熱線魔法で攻撃。魔力を半分以上消費してやっと1頭を動けなくする。あと2頭。そう思った瞬間ナージャが1頭をうち倒した。
最後の1頭が私に向かってくる。残り魔力を節約する余裕はない。連射でっとにかく狙う。だがこいつは動きが速い。何故だ、そう思いつつ連射し続ける。残り
バチッ! 障壁魔法に強い衝撃。敵がはね飛ばない。障壁に取り付いて剣で殴る。障壁が揺れる。まずい、気を抜いたら破壊される。更に魔力を込めて障壁を強化。だが魔力が残り少ない。
「リュネット、お願い!」
リュネットが私の状況に気づいた。ふっと魔力が半分程度回復する。リュネットの魔力回復魔法だ。魔力を魔力で回復するリュネットしか使えない魔法。
少しだけ余裕が出来る。ならこの目前の敵を攻撃するか。そう思った時、私はその必要がない事に気づいた。ナージャが来ている。
「アンに近づくにゃ!」
ナージャの剣が敵の背中に突き刺さる。敵がひくっと一瞬震えるように動いた後、気配を変える。私はほっと息をつきかけてそして気づく。完全には終わっていない。
「熱線魔法」
途中で倒れて動けなくなっていた敵の残りを熱線魔法で確実に始末する。これで大丈夫だろう。私達以外の魔力反応はもう無い。
「これは報告の必要がありますわ。魔石を回収したら転移陣で戻りましょう」
「だにゃ。何かおかしいにゃ」
「そうですわね」
全員で頷く。そう、数は別としても強すぎる。おそらくこの魔物、コボルトリーダーではない。このままにしていたら攻略本を見て来た次のパーティが危ない。
魔石を拾った後、ボス部屋の隣にある転移陣で戻り、そのまま受付へ。
「すみません。報告したい事があるのですけれども」
受付のお姉さんにそう申し出る。
「何がありましたでしょうか」
「第5階層のボス部屋ですが、
先程採取した魔石を5つとも出す。
「わかりました。第5階層のボス部屋ですね。ご報告ありがとうございます。至急調査をさせていただきます。その他に気づかれた事等はありますでしょうか」
「今回は第1階層から最短ルートで行ったのですが、特に異常は感じませんでした」
「わかりました。確かにこの魔石もコボルトリーダーとは違う気がします。幸い第5階層までは現在他のパーティはおりませんし、ちょうど調査担当が待機しております。本日中には調査結果が出せると思いますので御了承下さい。
それで他に御用件はありますでしょうか」
「それでは取り敢えず、他に討伐した分の魔石も清算お願いします」
最短ルートで行ったとはいえ各階層で2~3回は戦闘している。その分の魔石を一緒に提出する。
「わかりました。調査担当への連絡を含め処理してまいります。お待ちください」
中途半端な時間のせいかギルドに冒険者はいない。私達は待合室の椅子に座る。
「今日はこれで一度切り上げた方がいいでしょうね」
「そうですわね。何が起きたのかを一度確認したいですわ」
単なる
つまり今回の件は人為的な可能性が高い。そして思い当たる事は幾らでもある。私をはじめこのパーティは他から見ればエンリコ殿下と懇意にしているように見える。特に私は前回の舞踏会で陛下に呼ばれるなんて事があった。呼ばれてどういう話をしたのかは別として、その辺の事実はある程度以上の貴族なら既に知っているだろう。つまりエンリコ殿下を狙う他の大貴族には邪魔になる訳である。
いずれにせよ、今これ以上ここの
「とりあえず今日は帰って、昨日話をした別のレシピを試してみましょうか。長細いものだけではなく御飯の方なども」
お弁当はある。でもまだ食べる時間では無い。それにもし今回の件が人為的なものならあまり出歩かない方がいいだろう。だから家に籠もって出来る事。料理なんてのはちょうどいい。
「御飯ものってべちゃっとして芯があって、あまり好きでは無いのですけれど」
「その辺は調理の仕方があるのですわ」
銘柄オーク肉を活かすならカツ丼がいいだろう。カツさえ揚げれば、あとは昨日大量に作った
「計算が出ました」
受付嬢が私達を呼ぶ。
「合計で
うんうん、ここのギルド、なかなか優秀だ。領主の娘が発見パーティの一員だという事もあるかもしれないけれど。
「わかりました。宜しくお願いします」
礼を言って、そしてギルドを出る。
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