第31話 そして第5階層ボス部屋へ

 結果的に蕎麦の他、うどん、ラーメン、スパゲティのレシピを書いただけでは終わらなかった。更に白飯の上におかずをのっける物を丼と定義し、天丼とカツ丼と親子丼のレシピを書いて、ついでにイラストにもして説明。


 その結果。

「これらの料理はうちの料理長らに試作させよう。満足がいくものとなったら法務担当の部下に任せて商業ギルドへ申請する」

という事でマノハラ伯側で今後の手続き全てをやってくれる事になった。

 これで数ヶ月後か数年後になるかはわからないが麺類や丼が食べられるようになるだろう。美味しい料理が食べられるようになれば私も嬉しい。


 更に風呂の改造の件もついでにマノハラ伯に説明。これらについても今後様々な場所で自由に使えるように同じような措置をしてくれるとの事。


「本日は挨拶に来ただけのつもりだったが、本当に色々な勉強をさせた貰った。それにしてもアンフィーサ殿の知識の広さと欲の無さには恐れ入る。これらの料理も風呂も独占すればそれなりの利益になる事は間違いない。それをこうして公開して広く使えるようにするとは」


「楽しい事は広まって、その上で更に楽しいものに進化していった方がいいですわ。そうすれば私も今の状態よりもっと楽しめると思いますもの」


 なんて話をして、その後定例の挨拶をしてマノハラ伯は帰宅。

「お腹がすいたにゃ」

 ナージャだけでなく説明し通しだった私もお腹が空いた。そんな訳でやっと念願の天ぷら蕎麦にありつく。本当は天ざる蕎麦にしたかったがそんな容器はない。だからぶっかけ形式だ。


「この揚げたもの、さくさくした感じが美味しいですわ」

 自在袋のおかげで常に揚げたてさくさく状態。


「全体的に涼しいし夏にはちょうどいいよね」


 ここイ・ワミは日本に比べると湿度が低くて過ごしやすいが、気温そのものは結構高い。だから冷たい蕎麦は結構いい感じだ。

 ただそれだけではない事をここで言っておこう。


「今回は涼しい食べ方ですけれど、汁を薄めにして温かくして麺がかぶるくらいに入れると寒い季節でも温かくいただけますわ」


「そういう食べ方もあるんですね」


「先程話したうどんでも同じ事が出来ますの。ラーメンとスパゲティは少し変わりますけれど、それはまた別の機会に作らせていただきます」


「楽しみですわ、それは」


 私自身も楽しみだ。何せ魔法を使えば料理もかなり時短出来る。そして料理そのものはおっさん時代も結構好きだった。心が病んでいた時だけは作る気力も無かったけれども。


 かなり大量に作った蕎麦も天ぷらも完食。念の為ワレリーさん達の分は別にしておいて正解だった。ナージャだけでは無い。リリアもリュネットもナタリアもかなり食べたと思う。まあ物珍しさというのもあるだろうけれど。

 それに自分達で作った分余計に美味しく食べられたのかもしれない。お嬢様方は料理なんで事は通常しないから。


「それではお風呂ですね。今日はまだ工事中でしょうか」


「本日の工事は終了致しましたので、室内のお風呂の方は使用可能となっております。外は土台と屋根を中心に工事を致しました。新しい浴槽等については明日以降、概ね明後日には完成する予定となっておりますわ」


 この世界は工事等も魔法を使う。粘土を塗って魔法で焼き付けたり木材等を熱線魔法でカットしたり。つなぎ目等もほぞ継ぎ等で組み合わせた後、素材融合魔法等で完全につなぎ目を無くしたりなんて事までする。木材を曲げたりするなんて事も素材調整魔法であっさりだ。だから工期が短くて仕上がりも頑丈だ。だから新しい風呂の施設もかなり楽しみ。


 でも今日は今日で皆とのお風呂を楽しむこととしよう。

「それではお風呂に行きましょうか」

 リリアと一瞬目が合う。うんうん、何気なく今日もお風呂を楽しもう。あと夜も。


 ◇◇◇


 翌朝はワレリーさんが私の説明を見て作ってくれた肉入りうどんを食べて、迷宮ダンジョンへ。

 なお昨夜もリリアと同じベッドで過ごしたのは他の3人には内緒だ。


「今日はまず最短経路で第5階層のボス部屋を突破しましょう」

 昨日殲滅した筈の第3階層までの魔物も一晩経ったのでかなり復活している。しかし私とリリアの攻撃魔法があるので瞬殺しながら進めばそれほど時間はかからない。

 そんな訳で第5階層のボス部屋まであっさり到達。


「ここのボスはコボルトリーダー3頭。ある程度戦ったら応援を呼ぶのですよね」

「ええ。ですから短期決戦ですわ。最初にナタリアに速度低下魔法スロウをかけて貰い、次にリリアと私が攻撃魔法を仕掛けます。その後、ナージャとナタリアでとどめをお願いしますわ」

 

 このパーティ、魔法攻撃力は大変に強力なのだけれど長期戦は得意ではない。女子ばかりで耐久力というか頑丈さが今ひとつなのだ。

 盾役の私もやはり女子なので鎧や盾、体力で耐える訳では無く障壁魔法で敵の攻撃を防ぐ。この際、障壁魔法だけで無く敵のヘイトを集める為に攻撃魔法も使用するので魔力の消費が激しい。


 私の最大魔力は大人の平均と比べても倍以上で同学年生徒平均の3倍以上。それでもこの方法論で長時間の戦闘をするには無理がある。リュネットの魔法である程度は魔力の補充ができるが、6半時間10分以上の戦闘は避けたい。

 つまり過大な魔法攻撃力を武器とした短期決戦が基本となる訳だ。だから今回もこの作戦で行く。


「一応いい方の装備にしておきましょう。万が一の事がありますから」


「そうだね。コボルトリーダはゴブリンリーダーより頑丈で魔法にも強いし素早いし。私はまた守ってもらっちゃう立場だけれど」


「基本的には私が攻撃魔法を連発して敵をこちらに向けるつもりです。ただうまく行かなかった場合はリリアに魔法で阻止して貰う必要があるかもしれません」


「補助系魔法はあまり得意ではないのですわ。その辺ナタリアに任せっぱなしでしたから」


「その辺はお任せください。最初に敵に速度低下魔法スロウをかけますから」


 最後の意思確認をして、装備をもう一度確認して、それから私達はボス部屋へと乗り込んだ。

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