第6話 実戦能力向上準備計画
競技会の為にも、私はイメチェン&殿下攻略作戦をやりつつ、冒険者的な実力をつける訓練をしなければならない。ただここで身につけた実力は将来必ず役に立つ。
私が諸国漫遊の旅に出るには冒険者になるのが一番手っ取り早い。適当に悪者や魔物を倒して報奨金を稼いで、地域の人に喜ばれつつ旅を続ける。まさに水戸黄門的な旅行スタイルだ。これに必要なのは冒険者登録と己の実力だけ。
だから冒険者登録をして、
「ナージャ、実は休日に冒険者をやってみたいのですけれど、付き合っていただけないでしょうか?」
「冒険者にゃ? アンの家は侯爵家と聞いたのにゃ? 冒険者をしてお金を稼ぐなんて必要はにゃいのではにゃいのか?」
確かに一般的にはその通りだ。でもまだ競技会出場なんて言わない方がいいだろう。だから別の理由を考えてある。
「学校で習った魔法や戦闘術を実際に使えるものにしたいのです。それには現場で実践するのが一番だと思うのですわ」
「それって、魔物相手に戦うつもりなのきゃ?」
よしよし、身を乗り出してきたぞ。いい兆候だ。
「ええ。勿論最初はスライム程度からの挑戦になりますけれども」
獣人は戦いが好きだと聞いている。それに競技会もゲームではナージャが聞きつけてリュネットに参加したいと言ってくるのだ。だからこう言えば、きっと……
「面白そうなのにゃ」
やはりあっさりとのってくれた。それでは次の攻略だ。
「リュネットにも出来れば一緒に行って欲しいのですわ。私もある程度の攻撃魔法と補助魔法を使えます。ですけれど魔力はまだ充分とは言えません。確かリュネットなら通常の回復魔法の他に魔力回復の魔法も使えると聞きました。ですので一緒に行っていただければ安心できるのですわ。少しですがお小遣いも入りますし」
リュネットの家は貴族とは言えあまり裕福ではない。男爵家とは言えただの小規模領主、他に役付きという訳ではないので財政はかなり厳しい筈。ゲームでは確か小遣いも最低限クラスだった筈だ。
「でも危なくないかな」
リュネットの口調も大分砕けてきた。私の方は生まれつきこの話し方なのでなかなか変えられない。でもその辺は2人にも訳を話してわかってもらっている。
「あくまで学校で習った事の実践演習なので安全第一でやりますわ。最初はクーザニ
「でも私、授業で使うような程度の装備しか持っていないけれど」
「それは私も同じです。でもあれでもD級の一般的な冒険者と同じ程度のものではある筈です。私達は冒険者としては最下級のE級からはじめますし、そう心配しないでも大丈夫だと思いますわ」
「ナージャも一緒に行くから問題無いのにゃ。スライム程度は爪で一発なのにゃ」
よしよしナージャ、誘ってくれてありがとう。でも実際スライムくらいは確かにナージャ1人でもあっさり倒せそうだ。獣人、特に猫の獣人は接近戦にかなり強いと聞いている。その代わりスタミナがまるで無いらしい。その辺はこっそりステータスを見てみると良くわかる。
「なら私も行こうかな。正直攻撃魔法はあまり得意じゃないし、剣術もからきしだけれども」
「そうしていただけると安心ですわ」
いつもの笑みで返しつつ、中の人がよっしゃーとガッツポーズをとっている。これでリュネットとナージャを鍛える事が出来る。勿論私自身もだ。
「それでは今日の放課後、冒険者ギルドに行って冒険者登録をしてきませんか。そうすれば今度の休息日に
「そうだね」
「賛成にゃ」
よしよし。これで計画がまた一段階進む。
「あれ、アンさん達、
隣のテーブルで昼食を食べていた男子に聞かれたようだ。同じクラスの子爵家三男、ニキータにそんな事を聞かれる。
「ええ。習った魔法や剣術が実際に使えるか、実戦で試してみたいと思いまして」
おっと、真面目に答えたのに男子3人に笑われてしまったぞ。
「アンさんなら実際に使う事はまず無いだろ」
「そうそう。大体そういう場所に行く際には護衛が何人も着いているだろうしさ。そんなの下々の連中に任せておけば」
これだからこの国の貴族は、と思う。甘いな君達。貴族であっても自分の身は自分で守れる程度にはしておかないと。まあこの国の階級制度は絶対だから今はそれにあぐらをかいていられるけれどさ。
それにニキータ、子爵家の三男なら当たり前だが家を継ぐ事は出来ない。だから騎士団なり官僚なり何かの職につかなきゃならない筈だ。その際に学問もいい加減、魔法も中途半端、実戦では戦えませんでは何も出来ないだろう。
ただ問題なのはニキータ1人ではない。実際この国の官僚や騎士団には貴族出身の管理職や士官が大勢いる。しかもこの中で実際に使える程度の能力があるのは3割程度。
だから例えば騎士団では貴族の子弟の士官はだいたい近衛騎士団か第一騎士団に配備する。この辺の騎士団のお仕事は専ら街や王宮等の警備。つまりはまあ、ある程度出来る部下にちょっと命令すればあとはいるだけで出来てしまう程度の仕事につかせる訳だ。万が一の実戦担当は庶民出身の第3騎士団から第8騎士団。
その辺にも国の腐っている部分が現れている。
まあ私は出て行く予定だから関係ない。だから小言をここで言う必要性も義務も無い。ゲームの通りなら私が学園にいる間は対外戦争も起こらない筈。そして私が出た後ならこの国がどうなろうとも知ったことじゃない。
「学校の授業では試せない魔法も
「でもあまり無理はしない方がいいと思うよ。その辺は庶民の仕事だしさ」
「ご忠告ありがとうございます。充分に気をつけますわ」
この辺の会話も殿下の耳に入るだろうか。そして少しでもこっちに興味を持って貰えるだろうか。
そんな事も考えつつ、私はいつも通りにこやかに彼らにも笑顔を返す。別に彼らへのサービスでは無い。明日への投資なのだ、この笑顔ひとつにしても。
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