第5話 大物攻略計画案

 こうやって地道に攻略を進めた結果、数日で変化が現れた。

 御令嬢達は比較的保守的だからナージャと一緒だとあまり話してこない。でも男子連中、特に下級貴族や実家が商人なんて連中は比較的考え方が柔軟だ。


 そんな訳で以前は私の態度やナージャの存在で敬遠していた男子連中も、大分話をするようになった。勿論私は侯爵令嬢だからあわよくばお近づきにという下心を持つ奴もいるだろう。でもそれはそれでかまわない。叶えてやる気は全く無いけれど。


 こうやって人の輪を増やしたのは無論目的がある。いずれエンリコ第二王子殿下を攻略する際の為だ。勿論攻略と言ってもうちの親が望むような結婚相手としてではない。あくまで信頼できる友人としての関係が目標だ。中の人がおっさんだから男といちゃいちゃする趣味は無い。ああ考えるだけでぞっとする。


 第二王子殿下に近づく理由は大きくまとめて3つほどある。

 ひとつは私の行動の変化によっていくつかの出会いのフラグをへし折ってしまったリュネットと殿下を近づける事。

 この世界はゲームの世界。殿下と結ばれる可能性が高いのはリュネットと私。つまりリュネットがうまく結ばれてくれなければ私にお鉢が回ってくる訳だ。それでは私の求める自由な諸国漫遊の旅が出来なくなってしまう。


 ふたつめの目的はナージャと殿下を近づける事。ナージャはこの国でこそ忌避されている獣人だが、実はイズモー連邦を構成する国のひとつイ・チハタ国の王族の娘。ゲームではリュネットを通じて彼女と殿下が友人関係になった結果、この国とイズモー連邦の国交がより活発になる。またイ・ワミにおける獣人への偏見も徐々に解消していく流れになる。

 この辺下手にゲームと違う流れにしたら問題が出そうな気がする。だからリュネットでのハッピーエンドへのフラグを私がへし折った分、こういう部分へのサポートはしておいた方がいい。


 そしてみっつめ、一番重要なのが、殿下に信頼して貰う事により、国王家へのパイプの役割を果たして貰えるようにする事だ。

 運が悪いと私は卒業後すぐに実家の陰謀がバレて処刑される事になる。その為には実家の陰謀がバレても私に被害が及ばないようにしなければならない。ただ逃げるだけでは駄目だ。重要犯罪者として他国へも手配されかねない。


 その為に一番簡単な手段として私が考えたのが密告だ。具体的には卒業寸前までに殿下経由で陛下に手紙を出し、実家の陰謀を密告する。同時に『私の存在が陛下や殿下の身に関わる犯罪に使われないように』姿を消す事で、自分の潔白とこの国の脱出を同時に果たす。

 これで追っ手は来ないだろう。私も晴れてこの国を脱出できる。めでたしめでたしという訳だ。でもその為には殿下にメッセンジャーをして貰う必要がある。その為に殿下を狙わせてもらうのだ。


 さて、殿下と仲良くなるためにはどうするか。本来私は第二王子殿下の結婚相手として最有力候補。だが私が中のおっさんの記憶を取り戻すまでの間、私は殿下と親密な関係にはなれていなかった。

 私だけではない。私以外の御令嬢も事ある毎に殿下のお近づきになろうとしているが今の処全滅状態だ。殿下は側近2名を含む男子勢と専ら一緒にいる。


 何故そんな状態なのか。一度ゲームをクリアした中のおっさんは知っている。理由は簡単、殿下は自分のまわりに寄ってくる同年代の女子にうんざりしているのだ。


 何せ王家と姻戚関係になれば他の貴族とも扱いが変わってくる。だからご令嬢達は家からの教育もあり、積極的に殿下に寄っていく。このクラスのほとんどの女子が殿下を狙っているといっても過言では無い。もちろんかつての私もその1人だ。


 幼少の頃からそんな肉食獣みたいな同年代の異性に囲まれた結果どうなるか。皇太子である第一王子はあまり深く物事を考えない性格らしい。結果問題は無かった模様だ。でも第二王子はやや繊細らしい。その結果……そう、そういった肉食獣系女子を苦手とするようになってしまった訳だ。


 ゲームのクリアルートでは殿下が自分にそのように積極的に寄ってこないリュネットに興味を持つ。実はリュネット自身は殿下と話をしたいのだが、単に親の階級のせいでそう出来ないという事に気づかないで。そしてリュネットは立場上積極的に殿下に近づく事が出来ない。殿下はそれを奥ゆかしさととって、そして……

 だから今の私がするのはそれにのっとった作戦だ。

  ① 私自身の評判を、殿下がよく話をする男性陣の間では高めまくっておく。

  ② その上であえて殿下には積極的に近寄らない。

  ③ 殿下が私、リュネット、ナージャのグループに興味を持つような事をする。

 今はこのうち①と②の作戦を実施中。


 ただ、③の実行を焦ってはいけない。何せおっさんが中の人になる前の私はそんな肉食獣系女子の最先鋒だったのだ。その辺の記憶やイメージが薄れるまではおとなしくしている必要がある。


 それに殿下が私達3人のグループに興味を持つようなちょうどいいイベントのあてもある。秋の競技会だ。

 この世界の競技会はスポーツの祭典では無い。会場はイ・ワミ国最大の迷宮ダンジョンであるギンザーン。この中で倒した魔物の報奨金や拾得したアイテム類の金額を競うというガチ冒険者的な戦いだ。


 ゲームでの選択次第ではナージャがリュネットを誘い、2人組で18歳以下の部に出場する。ここで1年生のうちに入賞できれば殿下からかなり注目されるらしい。そう攻略サイトに書いてあった気がする。男子はやはり単純な強さに弱いのだ。

 女子はやれ美容だのちょっとした服の違いにこだわったりするけれど、男子はそんなのほとんど見ていないし気づかない。その事を私のなかのおっさんは知っている。


 ただし実際のゲームでは1年目に競技会で入賞するのはかなり困難である。中のおっさんもゲーム時には入賞の望み無しと考え、このルートは選択しなかった。だが私、アンフィーサが加わった事で戦力はかなり上がった。更に私、厳密には中のおっさんのメタな知識を活用すれば入賞どころか優勝も夢じゃ無い。助さん格さんならぬリュネットとナージャを従えて競技会制覇だ!


 なおこの競技会を含め、このゲームは乙女ゲーの癖に戦闘になるシーンが多々ある。だからこそRPG並に詳細なステータスなんてのがある訳だ。でもこの乙女ゲーらしくない選択肢や設定のおかげかこのゲーム、あまり人気は無かった。だからこそ通販で二束三文で買えて、結果俺が気分転換にプレイ出来たりした訳なのだけれど。

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