君と出逢えたから

君とゆっくり夜道を歩く。

夜だけれど、まだ人通りの多い時間だから通りは賑やかだった。

今は、その雑踏の賑やかさと、頬にあたる涼しい夜風が心地よかった。

君はいつもと変わらず優しい声音と柔らかい笑みでとりとめのない話をする。

私はそれがいつも以上に嬉しかった。

君の言葉が途切れ、穏やかな沈黙の時間がふと訪れた時、私は心を落ち着かせながら君に声をかける。

「今日はありがとう。買い物も楽しかったし、あのご飯おいしかった」

「うん。また行こうね。あのご飯は似たようなの作れるかなって。今度試してみるね?」

私は君の言葉に大きく頷いてから、意を決して言った。

「ちゃんと……自分の口から言いたいから。聞いてほしい……私、霊感があるんだ。普通の人が見えないものが見えちゃう。……隠しててごめん」

君は私の言葉に、少し目を瞬かせてから柔和な優しい笑みで小さく頷いた。

「そっか。教えてくれてありがとう……でもね?」

君は優しい声音のまま、言葉を紡いでいく。

「もし、君が隠したいことがあるなら君は言わなくてもいいんだよ?もし君に隠しごとがあったって、君が僕と一緒にいてくれるなら、僕はそれでいい」

私は人と関わることを避けてきた。

隠しごとを持ちながら人と深く関わることは卑怯な気がしたから。

もし、一緒に生きていく中で、私の体質のせいで何か不都合なことがあったらと思ってたから。

私の体質のことを知らずに、私と一緒にいさせることを、どこか申し訳ないと感じていたから。

「たぶん、僕らが知らないだけでそういう人は他にもいるんじゃないかな?誰も彼もが、自身のことを全て口にするわけじゃないでしょう?」

君の言葉を私は時折、頷きながらただ聞いていた。

「見えた方や感じ方が違うなんて、あたりまえのことでしょう?きっと僕と君でも、視力の違いや色彩の捉え方、いろんなことで見えた方は全然違うと思う。でもどんな人だって、自分の選んだ生き方で生きていいし、幸せになる権利はある。……僕はそう思う」

そして君は一際、優しい声と微笑みで言ってくれた。

「よく今までひとりで頑張ったね。怖かったこともあったでしょう?つらい時、僕がわかってあげられなくて、そばにいられなくてごめんね。これからは僕にも一緒に頑張らせてくれないかな?」

君は少し顔を赤らめながら言ってくれたんだ。

「君が好きだよ。……僕の恋人になってくれませんか?」

私は、驚きと嬉しさで涙が溢れた。

いつもはまともに機能してくれない表情筋がバグったみたいに、嬉しいのに涙が溢れて、驚いているのに頬がゆるんでにやけてしまう。

こんなしまりのない顔なんて君に見せたくなかったんだけど。

そんなことさえ、どうでもいいと思えるほど幸福で心が満たされていく。

私はその幸福を噛みしめるように何度も何度も頷いた。


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