君と出逢ったのに
君が私の飲み物を取りに行ってくれている、ほんの少し間に声をかけられた。
「あれ?あんた……もしかして」
「え?」
少しキツめの顔立ちを、きっちりとした化粧で仕上げている女性は、同世代か少し年上に見える。
彼女は友人らしき女性2人と一緒にいるが、体をこちらに向けて、眉を
どの女性も最近の流行りなのか、派手目の服を着こなしていて、私には近寄り難い雰囲気をもっていた。
友人らしき女性も、彼女につられるように、私を訝しげに見てくる。
顔見知りかと思ったけれど、こちらを見るどの女性の顔にも覚えはなくて、小首をかしげた。
「相変わらず変なこと言って、ボッチでいるの?」
その一言に、私は目を大きく開いた。
あの一件以降、無表情や無口なことを他者から何か言われたことはあっても、私がオカシナ言動した、とは言われたことはない。
……ということは、同じ小学校の人間ということになる。
けれど化粧をしているからか、大人になって顔が変わっているせいなのか、まったく誰かはわからない。
「……誰?」
私は訝しげに目を細めて、相手を見る。
私のその反応を見て彼女は、さも可笑しそうな笑みを浮かべて、嫌味たらしく言う。
「ひどいなぁー。忘れちゃったの?同クラだったのにぃ!」
同じクラスだったと彼女は言うけれど、小学校では何度もクラス替えがある。
何年生でクラスメイトになったかもわからなければ、この反応は当然ではないだろうか。
よほど仲の良いおともだちだったなら話は別だけれど、残念ながら私にはそんなおともだちはいない。
それにしても、たちの悪い人間に絡まれたものだ。
わざわざ声をかけてきてまで、私に何を求めているんだろう。
「変な先生がいたんだっけ?」
彼女がニタニタと意地の悪そうな笑みを浮かべて、からかうように、そう言った。
彼女がずいぶんとあの一件について詳しい、ということはわかった。
私はとにかく君が帰ってくる前に、彼女たちを追い払いたかった。
だから彼女が何をしたいのか、何をすれば満足なのか考えていた。
けれどこういうタイプの人間はだいたいは、ただからかいたいだけ。
ただ困っている反応を見たいだけ。
自身が優越感に浸りたいだけ。
とりあえず彼女が頼んでもいないヒントをばらまいてくれているので、私は彼女のことを思い出そうとしていた。
ただ、こういう場合、あまり深く関わっていないパターンと、相手が知っているだけのパターンがある。
私自身からは、全く、
私は思わず、ため息を漏らす。
私のその態度が癇に障ったのか、彼女は目つきを更にキツくして睨みつけ、唸るように言った。
「ねぇ、その態度はないんじゃない?友達だった人間に対してさぁ?」
だから私に友達なんて……と私が顔をあげて彼女の目があった瞬間、私に大きな衝撃が走った。
それは私の記憶の中にある人物と彼女の顔が、ぴったりと重なったから。
最後に会った時より大人になっているし、化粧もしているし、あの時の面影はほとんどないけれど。
顔の造作も、浮かべている笑みの表情の種類も、何もかもが違っていたけれど。
何故か気づいてしまった。
「もしかして……あなた」
私から掠れた声が漏れた。
ありえないと思った。
彼女があの日の放課後、私とおしゃべりをしていた友達だったなんて。
あれから彼女とは疎遠になっていた。
彼女とは違う中学校に通っていたから、小学校の卒業式の日が、彼女との最後の記憶だ。
彼女が何中学校を卒業して、今に至るまでどう生きてきたかも知らない。
それ以前に、同じクラスでも、あの日からほとんど話すことはなかった。
当然といえば当然だろう。
あの一件後、周囲は私を変な子扱いしていたし、当事者になってしまった幼い頃の彼女にとっても、私とのことは嫌な思い出だったと思う。
彼女は見るからに私を避けていたし、私もそんな彼女に極力近づこうとはしなかった。
けれど、彼女の笑みを今でも覚えてる。
小学校を卒業した日に最後に見た彼女は今、目の前にいる女性とは全く違った笑みを浮かべていた。
あの後、彼女に何があったのか。
忌々しそうに私を睨みつけ、歪んだように嘲笑を浮かべる彼女に、私は頭の中で必死にかける言葉を探していた。
けれど私の乾ききった喉はひりついていて、頭の中は混乱していて、うまく言葉を紡ぐことができなかった。
それでも何か声をかけようと口を開いた瞬間。
「あれ?大丈夫?お知り合い?」
君の声に、私は目を
今はまだ、君に戻ってきてほしくなかった。
君はいつもの優しい表情で私に笑いかけて、アイスティーの入ったコップを前に置いてくれた。
彼女の視線が私から剥がれ、彼にそそがれる。
そして私と同じように見開いた瞳で、彼を映す。
彼女は一瞬だけ動きを止めた後、もう一度私の方に視線を向けて笑った。
あの頃とは全く違う表情で。
あの頃の面影さえ感じさせない、意地の悪い嘲笑を浮かべて。
「ねぇ、お兄さん。この人の彼氏?」
彼女が君に近づいて、君の腕に触れようとした時、私は声を少し大きくして彼女の手を掴み、制止した。
「ちょっと、やめて……」
私のそんな反応を楽しむかのように彼女は、甲高い声で笑ってから、叩くように私の手を振りほどいた。
「彼氏なら、知ってるかなぁ?この人、変な子なんだよ?なんかぁ、おばけが見えちゃうんだって!」
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