君と出逢った時

あのクラスメイトを学校で見たのはあの日が最後だった。

急に学校を休みがちになって、その年の夏休みを期に転校してしまったらしい。

私はといえば、あの一件から少しの間は変な子って言われていた。

けれど、だんだんみんなも話題に飽きてそのうち噂も消えていった。

学年があがったり、クラス替えがあったりしたおかげだろう。

私自身も自分の体質を理解して、うまくつきあっていく様になった。

まず、周りをよく観察して人と人じゃないものを区別するようになった。

他の子たちが話しかけない人間や他の人がよけなかったり、すり抜けてしまう人間は私も話しかけなかった。

人間の形でないものに関しては、図鑑に載ってないものは極力関わらないようにした。

普通の人には見えないものかもしれないから。

そして必要最低限の会話しかせず、人との関わりをなるべく避けるようにした。

そうすれば、周りも怖がることはないし、私も傷つかない。

それも中学生になる頃には、自身の体質とも人との付き合い方もだんだんわかってきて、自然と普通の子に見えるように振るまえるようになっていた。

だから人と会話する瞬間の息が詰まるような不自由さも少なくなっていた。

けれど、やはり普通の人とつよく関わるのは気が引けた。

慢心なんてせずに言葉選びも対応も慎重に慎重を期した。

それでも、大人になっていくにしたがって不安や心配も形を変えていく。

ただ、学校生活をするだけではなく、社会にでたらたくさんの物事に関わらなくてはならなくなる。

人と関わることも、物事への対応も、そのことへの責任も大きくなる。

たくさんの人が普通にできるであろうことも私にはひどく難しいものに思えた。

私はまた不安に押しつぶされそうだった。

そんな時に君に出逢えた。


君と出逢ったのはもうずいぶん前のことだった。

君に初めて出逢った時も私には心配と不安しかなかったんだ。

君はたまたま隣になった私に声をかけてくれた。

君は春の木漏れ日みたいに優しかった。

そんな君といると冬に灯る暖炉みたいに心があったかくなった。

いつのまにか二人でいることがあたりまえになってた。

だけど君に私のオカシナ体質の事は言えなくて。

でもあの日、心構えもできていないまま君にバレてしまった。

あの日は君と一緒に買い物をして、その後ファミレスで食事をしていた。

あの時、一緒に出かけていたことをデート……といっていいんだろうか。

まだ恋人だとははっきりしていなくて、でもただの友人と言うのは少し寂しい。

そんな曖昧な関係だけれど、君といると幸せで、もっと関係を明確にしたいと思っていた。

君と恋人になりたいけれど、恋人になるなら私の体質のことは言わないといけないと恐れていた。

そんな曖昧な関係だった頃のできごと。


「これ、美味しいよ」

抑揚のない声音で君に言いながら皿をずいとさしだす。

君はその皿から一口とってぱくりと食べて微笑む。

「ほんとだ。これ……味付けはお塩かな?似たようなのなら作れるかも」

「ほんと?やった」

私の声にはやはり抑揚はなかった。

あの一件以来、私はあまり感情を面に出すことが苦手だった。

幼い頃は意識的に出さないようにしていたけれど、それで慣れてしまったから私は基本的に無表情でいる方が楽だった。

能面みたいだとか愛想がないだとか、これはこれでいろいろ言われたけど。

でも君はクールだねって私に笑ってくれる。

私たちは和やかに食事を楽しんでいた。


「あれ?あんた……もしかして」


あの時まで。






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