君と出逢うまで

私はこの体質だから人と大きく関わることはしなかった。

幼い頃はそれなりに普通の子供だったと思う。

幼い子供がくうを指して「あそこに人がいる」と言っても、誰も見えないところでまるで誰かとおしゃべりしているみたいにしていても大人は怖がりこそすれ、責めたてはしない。

子供にしか見えない何か、ってことで片付けてくれる。

子供たちだってさほど気にしない。

遊びの一環にして、いっしょに騒ぐだけ。

子供であれば少なくないことで、誰もオカシイことだとは言わなかった。

だからわからなかった。

私が見えている世界がオカシナ世界だってことに。


あれは小学生の低学年の頃だった。

その日もいつものように、私は過ごしていただけだった。

私にとっては人も人ならざるものもあまり変わらなかった。

異形と呼ばれるものも、その時の私にとっては図鑑に載ってない動物くらいにしか感じていなかった。

だから、気づいたのは突然だった。

その日の放課後、教室で友達をみつけて、いつものようにおしゃべりをしていた。

突然、ドアが開く音がして振り向くと、そこにはクラスメイトと先生がいた。

「こんな時間までどうしたの?」

不思議そうな表情で先生は聞いてきた。

「ん?お友達とお話してるだけだよ」

「……暗くなる前に早く帰りなさい」

「はーい!」

先生はそう言って、教員用の机に座った。

クラスメイトは訝しそうに私を見ていた。

私はこれ以上おしゃべりをしていると怒られると思い、友達に「帰ろう」と声をかけた。

友達は何も言わない。

ただ困ったような苦笑いを浮かべるばかり。

クラスメイトはといえば私をキツく睨むような目で気味悪そうに見る。

そして、クラスメイトは私を押し退けるようにぶつかって戸惑っている友達に近づく。

「こんな子ほっといて一緒に帰ろう!」

クラスメイトが友達にそう声をかけた。

こんな子と言われているのが私のことだとはすぐにはわからなかった。

「私も一緒に帰る!」

私はランドセルを背負って友達に駆け寄る。

するとクラスメイトは嫌な顔をして私から友達をかばうように立ちはだかった。

「ねぇ、変なこと言うのやめたら?目立ちたいのか気を引きたいのかしらないけど気持ち悪いよ」

クラスメイトがさげすむように私を見たその瞳を私は今でも忘れられない。

嫌悪、侮蔑、嘲笑と優越感。

恐怖、異様、拒絶と嫌悪感。

何もわからなかった私は向けられた言葉にひどく傷つきながらも、言い返した。

「なんでそんなこというの?私が何かした?」

言い返した私の言葉にクラスメイトは鼻で笑う。

そんなひりついた私たちの様子に友達が慌てて私に声をかける。

「ねぇ、ドアに向かって誰としゃべってたの?」

友達が寄り添うように優しい声で言ってくれたから私は今起きた出来事を話した。

先生が目の前にいるのに話すのは少し気になったけれど。

「ねぇ!!もう、怖がらせるのやめなよ!それ、イジメだよ!!」

クラスメイトが声を荒げて、私を責めたてた。

「そんなことしてないよっ!イジメじゃないよね?先生!」

私は机に座る先生に向かって助けを求めるように声をかけた。

先生は何も言わずこちらを見ているだけ。

「誰もいないってば!!そういうふうに怖がらせるのやめてよ!!」

クラスメイトが金切声をあげながら私に近づき力まかせに突き飛ばす。

私は体勢を崩して思い切り尻餅をついた。

「椅子ならともかく机に座る先生なんているわけないじゃんっ!!今、ここに、先生なんていないんだよっ!!」

クラスメイトはそう言い放つと友達を連れて教室から走り去ってしまった。

私は少しの間、呆然としてしまっていたけれど、ゆっくり立ちあがって私も教室を出た。

私は教室のドアを閉める前に教室のすみにある机を見た。

そこにはもう誰もいなかった。

翌日、学校に行くとクラスメイトが友達と一緒にいて、他のみんなが私を奇異の目で見てきた。

その時、私はやっとわかった。

私の見ている世界はみんなと違うんだってこと。

私の見えているものはみんなには見えてない。

だってクラスメイトの背後から、彼女の首を絞めるように握りながら睨んでいる昨日の先生がいても、誰も何も言わなかったから。






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