第70話:ルーパス一家と大魔王

 魔界に来たルーパスは顎が外れそうになるくらい驚いていた。

 それくらい予想外の状況を目の当たりにしていた。

 そのルーパスの姿を見た大魔王が苦笑いを浮かべるほどだった。


「何を今さら驚いているんだ。

 余はどうしても蘇らせたい者がいると言ったではないか。

 ルーパスも自分の命に代えてもミネルバを蘇らせたかったのであろう。

 だったら余がどのような手段を使おうと、神々の殺された妻を蘇らせたいと思う気持ちも分かるであろう。

 そして神々に復讐したいという気持ちもな」


 ルーパスにもようやく大魔王の気持ちが分かった。

 人族を滅ぼそうとも、人族の神を利用しようとも、同じ魔族を皆殺しにしようとも、妻を蘇らせたい気持ちが、妻を殺した神々を滅ぼしたい怒りが。


「なるほど、この状況は理解した。

 大魔王の気持ちも分かった。

 だが、いや、だからこそこれ以上係わるのは嫌だ。

 俺達を殺してでも神々に復讐する気なんだろ」


「いや、ルーパス達を殺してでも成し遂げたかった妻の蘇生は成功した。

 神々への復讐は、妻の安全を確保した範囲でいいのだよ。

 まあ、神々はどんな悪逆非道な手段を使ってでも魔族を滅ぼそうとしているから、命懸けで戦わなければいけないのは確かだ。

 だが、それでも、ルーパス達を脅して利用するよりも、利を約束して協力する方がいいと考えている」


 ルーパスは大魔王の気持ちが分かるだけに、信じられる部分と信じられない部分があり、判断に困っていた。


(話だけは聞いてくださいルーパス。

 多くの話を聞けば聞くほど、嘘と真の判断が正確にできるようになります)


 オードリーの守護石アラステアが心に話しかけてきた。

 そしてアラステアの提案はルーパスも納得できる事だった。


「最初に言っておくが、俺達は魔界を管理している神と戦う気はないぞ」


「それで構わない、ルーパス達は魔力を供給してくれるだけでいい。

 いや、安全な人界にいてくれた方が助かるのだよ」


 ルーパスは大魔王と交渉し始めた。

 実際には交渉という名の情報の引き出しだったのだが、そんな事は大魔王にも分かっていた。


「大魔王との約束は守る、だから第三世界との門は開こう。

 だがそれ以上の魔力供給は約束していない。

 約束をしていない魔力供給をするだけの利とはなんだ。

 それを聞かせてくれるのだろうな」


「ああ、聞かせたやろう。

 第三世界には知的な生物はいない。

 まだ海と大地と少しの緑があるだけだ。

 だが、だからこそ、魔界と人界の民や動物を移住させることができる。

 民が多くなり過ぎて食糧が不足した世界にこれほどの利はないであろう」

 



 

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