第71話:感覚差
大魔王は長年切実な魔界の状況に対処していた。
とても貧しい痩せた大地しかない魔界では、直ぐに食糧がなくなる。
生き残るには魔族同士が共喰いしなければいけないくらい貧しい。
それが皮肉にも魔族を神々に匹敵するほど強くした。
そんな中で共喰いを嫌った魔王の一人が人界への門を開いたのだ。
だが人界は土地が豊かな地域が多く、共喰いはごく限られた地域や宗教信者の間だけで行われる例外だった。
富や権力を求めて殺し合う事はあったが、他の世界に行かなければいけないような状況ではなかったのだ。
だからルーパスには大魔王の気持ちが分からなかった。
「大魔王、正直言うが、俺には全く利があるとは思えない。
何か根本的な価値観の違いがあると思うのだが」
「なに、別世界への移民に価値を感じないというのか。
信じられん、一体何が違うというのだ」
ルーパスと大魔王は真剣に話し合った。
長い時間が必要なくらい話し合った。
いや、何日も何カ月も話し合ったわけではない。
数時間話し合っただけだ。
だが魔界の数時間が人界の数カ月数年になってしまうのだ。
(ルーパス、ここは第三世界への移民権は放棄して、第四世界を手に入れましょう。
今はまだ人界は新世界を必要としていません。
ですがいつ必要になるか分かりません。
大魔王と移民可能な世界を分けておかないと、圧倒的に数が増えた魔族に襲われてしまいますよ)
ルーパスにアラステアが助言を与えた。
ルーパスにはその真意が直ぐに分かった。
人を移民させる場所としての新世界は今の人族には必要なかった。
だが、大魔王が裏切って人界に攻め込んできた時に必要となる魔力、その魔力を集める場所として新世界は役に立つのだ。
「分かった、大魔王。
第三世界との門は魔界から開こう。
そして人界から第三世界への移民する権利を確保しよう。
だがそれでは、いずれ人族と魔族が第三世界で争うことになる。
だから第四世界への門を開きたい。
いや、第五第六の世界への門も開きたい。
新たな世界の状況を知る方法を教えてくれ」
「……新たな世界は数限りなくある。
だが、息をするための空気すらない世界がほとんどだ。
ごくわずかに空気がある世界でも、物が重すぎたり軽すぎたりする。
空気があり物の重さが丁度いい世界でも、水がない世界がほとんどなのだ。
そんな無数の新世界から、知的な生き物がいない移民に丁度いい世界を探すのがどれほど大変なのか、ルーパスは分かっているのか」
大魔王が第三世界を探し出すのがどれほど大変だったのか、大魔王の言葉とそこに込められた感情から、ルーパスは初めて知ることになった。
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