第69話:守護石アラステア
ルーパスは内心苦々しい思いで一杯だった。
オードリーの守護石が何を考えている事が分かってしまったのだ。
オードリーの守護石はグレアムとオードリーを結ばせようとしている。
ルーパスには素直に応じられない話だったのだが……
「それはとてもいい事ね、オードリーが心を許しているグレアムが、戻ってきたら結婚していたとか年老いていたとかでは不幸だもの、ねえ、ルーパス」
「……そうだな、親しい人間が先に死んでしまうのは辛いからな」
本心ではオードリーとグレアムが親しくなることを嫌っているルーパスだが、同時に親しい人間が先に死んでいくことの辛さは誰よりも分かっている。
そしてオードリーが本当に心を許せる相手が、守護石とグレアムだけなのも分かっているのだ。
「ルーパス、ごめんなさい。
全部私がかたくな過ぎた事が原因なのよね、本当は分かっていたのよ。
オードリーに嫌われたくなくて、ついルーパスに罪を押し付けてしまったわ」
ミネルバがオードリーの前でルーパスに謝った。
オードリーには衝撃的な突然の話しだった。
慈愛の心で勇者を庇って死んだことが悪い事だとは思っていなかったのだ。
(それはね、勇者が本当の勇者ではなく、自分の欲望を満たすために勇者を名乗っていただけだからだよ。
本当に勇者なら、子供を産んだばかりのミネルバを犠牲にして、自分が生きのこったりはしないよ)
「「なっ!」」
ミネルバとルーパスあまりの衝撃に絶句した。
不意に他人が会話に加わってきたのだ。
しかも心の中に話しかけてきたのだ。
心臓が止まりそうになるくらい驚くのも当然だった。
だがオードリーはそれほど驚かなかった。
(初めまして、ルーパス、ミネルバ。
私はアラステア、オードリーの守護石だよ)
「オードリーの守護石だと、まるで人格があるようじゃないか。
いや、もうオードリーに助言をしていたのだから人格を得ていたのは分かる。
だが自分で名乗るというのはどういう事だ。
自分で自分の名前を決めたという事か」
(それほど難しく考える事ではありませんよ、ルーパス。
何時までもオードリーの守護石と呼ぶのは面倒だろうなと考えたからです。
それに、これから私と同じような人格を持った守護石が生まれるかもしれません。
もしオードリーが持っている他の守護石が人格を持ったらややこしいですからね)
ルーパスとミネルバはアラステアの言葉に絶句した。
確かにこれからも守護石が人格を持つ可能性はあった。
だがそんな事を気にするアラステアの人間臭さに驚くしかなかった。
(さあ、家族のわだかまりがなくなったのですから、腹を割って話をしましょう)
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