第65話:第三世界への悩み

 ルーパスは再び人界を飛び回っていた。

 各地に築いた魔法陣から魔力を集めていた。

 大魔王から教えられた新たな魔法陣を描いてもいた。

 大魔王に命じられた、人界でも魔界でもない新たな世界に通じる門。

 異世界門を開くための大魔法陣を描くのだ。

 ミネルバの安全を確保するためには、嫌でも描かなければいけないのだ。


 だがルーパスには払拭できない不安があった。

 大魔王は第三の世界には人族も魔族もいないと言っていた。

 それどころか知恵のある生物がいないとまで言っていた。

 だがそれが真実だとは限らない。

 既に何度も大魔王に騙されているルーパスが疑うのは当然だった。

 もし知恵ある第三種族が住んでいたとしたら、ルーパスは大魔王の侵略に手を貸すことになってしまうのだ。


 他にもルーパスには不安な事があった。

 それは自分が大失敗した魔界との時間の流れの違いだった。

 人界と魔界の時間流の違いがオードリーを不幸にさせてしまった。

 第三世界が魔界よりも時間の流れが遅かった場合、今度は第三世界で数分過ごして戻ってきたら、オードリーもミネルバが死んでいたという事もあり得るのだ。


 更に加えるのなら、人界から魔界に移動する時に大きな時間がかかる。

 しかもそれは決まった時間ではないようだ。

 人界と魔界は近づいたり遠ざかったりしているようで、まだ法則が分かっていないが、月や年の周期で移動に必要な時間が変わるようだった。

 そういう不安を考えれば、そう簡単に第三世界との門を開くわけにはいかない。

 門を開いた事で時間軸に悪影響を与え過ぎて、両世界が崩壊する危険もあるのだ。


「何を悩んでいるのですか、ルーパス」


 思い悩むルーパスを見かねたミネルバが声をかけた。

 ルーパスから大魔王との約束を守ると断言されてはいたが、内心ではルーパスが苦しんでいる事をミネルバは気がついていたのだ。

 元々思いやりがあり優しい性格のミネルバだ。

 ミネルバ自身が無理をし始めた事でルーパスが無理をしている事も分かったのだ。


 ルーパスも我慢の限界だったのだろう。

 全てを腹に納めきれずにミネルバに悩み苦しみを吐き出した。

 話を聞いたミネルバにもその危険性はよく理解できた。

 大魔王との約束なんて守らなくてもいいと言ってあげたかった。

 言ってあげたかったが、オードリーの顔が浮かんできて言えなくなってしまった。

 もう二度とオードリーを残して死ぬ事だけはできなかった。

 僅かでもその可能性がある危険は冒せなかった。

 二人の間に長い沈黙の時間があった。


「何を悩んでおられるのですか」

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